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紛れ込んだΩ①
目を覚ました雪弥のすぐそばで天陽の寝息が聞こえている。
大切な人の寝息ほど心を安らかにするものはない。雪弥はそれを噛みしめる。
天陽は人肌を恋しがるタイプだったようで、体を重ねるようになってからは、堰を切ったように雪弥の肌を求めてくる。
最近では一つベッドで寝起きしていた。
(ベッド壊れないかな)
セミダブルのベッドに二人で寝るのは窮屈だったが、雪弥は天陽の好きなようにさせていた。それに雪弥も天陽の体温を感じている方が落ち着く。
寝息に安らぎながら、雪弥は枕元のスマホを探し当てた。
しばらく、ぼんやりと画面を繰りながら、とあるメッセージに飛び起きた。SSクラスのグループトークだった。
―――天成学園にΩが紛れてるってよ
心臓がバクバクと音を立てるのを感じながら、メッセージをスクロールしていく。
(あいつらか? あいつらが言いふらしたのか)
暴漢たちを思い浮かべる。天陽の口止めは効かなかったのか。
言い出した元のメッセージの主は雪弥にとっても気の置けないクラスメートだ。トークが始まったのは昨晩だ。
――その話、飽きたわ
――今度はホントだって
定期的に、Ωが紛れ込んだというつまらない噂が立っていた。雪弥も何度も耳にしている。ただの耳障りな噂に過ぎなかった。
もちろん、雪弥が知る限りΩが紛れ込んでいたことはないが、過去には、何度かあったらしい。
性別証明書を偽造してまでこの学園に入りたがるΩがいるのか、と、それを聞いたときは不愉快になっただけだった。
しかし、今は違う。
雪弥のスマホを持つ手が震えている。
(俺の名前は? 名前は出てないか)
雪弥はスマホを握り込んで画面をスクロールした。
――Ωっぽいやつもいるもんな、この学校にも
――中受で燃え尽きて、そこから伸びねえ奴ww
――で、どこにΩいんのよ。俺、Ωをまだ見たことないんだよね
――実は俺らのSSクラスにいます
そのメッセージに雪弥の心臓が飛び跳ねる。震えながら先を読む。
――マ?
――誰よ
――あの人、笑笑
――あー、あの人かー。知ってた
――いやいや、俺らのクラスにΩがいたら笑えるっしょ
――いかにもαってやつが実はΩとかww
――何その、神展開
――ざまーーーーーww
――それより秘密にして一緒に卒業しよ(*’ω’*)
――独り占めだめ、絶対!
――共有オナホ、決定ww
グループトークの何気ない会話に雪弥は軽く傷ついていた。
SSクラスには上位αも多く、βにしてもαをしのぐような優秀な生徒ばかりだから、第二性へのコンプレックスがない。
そのためにグループラインでの会話も遠慮が働かない。
Ωという存在が彼らとはかけ離れ過ぎて、好き勝手に出来る空想のキャラクター程度の認識だ。
彼らのΩへの認識が、今の雪弥を抉ってくる。
(Ωには人権はない。俺もそう思っていただろう)
込み上げるものを噛みしめる。
下までスクロールするも、雪弥の名前は出てこなかった。雪弥のことを話しているのではない。根の葉もない噂、いつもの遊びごとだ。朝には話題が移っていた。
胸を撫でおろす雪弥に走り読みしたばかりのメッセージの一つが引っかかる。
――実は俺がΩなんだ。隠しててごめん。
雪弥はそのメッセージに視点を戻した。
メッセージの主はいかにも典型的なαのクラスメートだ。
――Ωは俺だぞ
――じゃあ、俺もΩww
――じゃあ俺もΩ
それを読むまで冗談にも気付かないほど雪弥は余裕をなくしていた。
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