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紛れ込んだΩ④
静かに日々は過ぎる。
校内試験ではやはり雪弥は首位だった。天陽は二位だ。
もう校内試験に力を入れる生徒は少ない。
しかし、天陽は悔しがっている。
「くそぅ、37点差か」
それからまもなくして、雪弥に朗報があった。
志望大学への入学許可の報せだ。アメリカの名門校である。
SSクラスに届いた初の合格報告のために、クラスは沸いた。
「さすが藤堂!」
「すげえな、やったな!」
第一志望合格をいち早く手に入れた雪弥が讃えられるが、そこには多少の嫉妬と、競争から先んじて「あがり」となった人を目の前にして焦りも見え隠れしている。
「雪弥、おめでとう!」
天陽は屈託のない顔で喜んでいる。
雪弥は朗報を受けても浮かない顔をしていた。
「行けるかな、俺」
入学許可も、高校卒業が前提だ。卒業できなければ取り消される。
それは、Ω化以来、雪弥が吐いた初めての弱音らしい言葉だった。
「何で?」
「わかんない……、でも、俺」
「アメリカの大学は性別とか関係ないんでしょ?」
日本と同じく、アメリカでも、私立学校には、男女性、第二性が別学のところも多いが、それも高校までで、大学となるとほとんどが共学だ。
入学審査でも第二性の提出は求められていない。
「うん」
「じゃあ、大丈夫だよ!」
「そうだな」
天陽の明るさに雪弥は照らされる。
(そうだ、高校を卒業できればアメリカでΩとして生きればいい。性差別も日本ほど強くはないだろうし)
アメリカでは抑制剤も性別証があればドラッグストアで買えるし、保護施設も寝食を提供するだけで行動を制限されることもない。
そのかわりΩは自分で自分の身を守らなければならない。
日本の方がΩの保護は手厚いが、アメリカではΩはより自由に生きられる。
(俺のαとしての輝かしい軌跡。それをΩになった俺で汚したくはない。誰も知り合いのいない新天地でひっそりと生きていく)
雪弥は次第にそう覚悟を決めた。
αの威圧に負けないように筋トレもメニューを増やす。英語に第二外国語の勉強も始めた。Ωとして生きるにはさらなる努力が必要だ。
(卒業まで、卒業まで隠し通せることができれば)
***
二回目の発情がきた。落ち込むも、予期していたことだった。
平日だったために天陽にも学校を休ませることになってしまったが、相変わらず天陽は「別にいいよ?」と応じてくれたことはありがたかった。
「ところで、何でアメリカなの?」
天陽は訊いてきた。
「え、今更訊く?」
雪弥ははぐらかす。理由は大したものではない。でも当初の理由以上の理由が今はできた。
(俺はアメリカでΩとして生きていく。再出発だ)
それが今の雪弥を支えるささやかな灯となった。
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