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紛れ込んだΩ⑤

大学合格は、雪弥に良い作用をもたらした。 まずは自信を取り戻し、生きる道への覚悟が定まり、受験を終えて精神的にも余裕ができた。 (ヤマダは誰だったんだ?) 今はとにかく無事卒業しなければならない。 そのためにヤマダが誰で、何をしでかすつもりなのかを突き止めておかなければならない。 生徒会グループトークの招待を受けられるのだから役員とつながりがあるか、役員の誰かの別アカウントだろう。 役員名をリストアップするまでもなく琢磨の顔が思い浮かぶ。 可愛いものだと感じていた反抗的な態度が、今となっては恐ろしいものとしか感じられない。 強者のときには反抗など痛くも痒くもなく、可愛いとすら感じていたが、今は琢磨ももまた敵に回せば恐ろしい存在だ。 琢磨以外に雪弥に反感を持っている生徒会役員は見当たらない。他のどの役員も雪弥を慕っている。熱烈に慕われているとさえ感じていた。 しかし、それは表の顔だとしたら。 雪弥の意のままに扱えると思っていた大山ですら、雪弥を『Victim』に仕立てあげるような真似をしでかしたのだ。 (案外、俺は悪意に気付けない間抜けなのかもしれない。いや、かもしれないじゃない、そうなのだ) これまで慕われていたのも、学年トップの頭脳のお陰であって、自分のこの陰湿で高慢な性格のためではない。 (天陽が隣にいて明るく照らしてくれているから、俺はまだまともに過ごせているが、あいつがいなければ俺はただの嫌われ者のトップだ。実際、俺を嫌っている奴なんか山ほどいる) 雪弥はこれまでも何度も激しい憎しみを手紙で受け取ってきた。 SSクラスや生徒会など、自分が所属する集団では、表立って歯向かわれたことはないものの、端々で悪意を感じてきた。 リストアップした生徒会のメンバーの名前を見ていくが、ともに活動した二年はともかく、一年にはよくわからないメンバーもいる。 (では、俺が放校されて得をするのは誰だ?) 雪弥は、動機から考えてみる。犯人を捜す常套手段だ。 二人の名前が浮かぶ。 やはり一人は琢磨だ。そしてもう一人は。 (歴代会長の名誉が傷つけば、自分の代が引き立つ。輝かしい代だと言われている直近の俺の名誉が地に堕ちれば、琢磨の代はやりやすくなる。しかし、それならば秀人にも動機があるってことになる) 雪弥は頭を振った。 (バカバカしい、秀人がそんなさもしい奴のはずがない。そんなさもしいことを思いつくのは俺くらいのものだ) 気を紛らわせようとペーパーバックを開いた雪弥の手が、いつの間にか止まる。 (しかし、秀人は俺をΩだと最初に見抜いた。そばにいた天陽よりも先に、Ωの発情を見抜いた。もしかしたら秀人は……?) あのとき秀人は救急車を呼ぼうとしていた。 (俺が病院に運ばれていたら、Ωの発情との診断を受けていた。俺がΩになったことが親にも学校にも知れ渡ることになっていた。そうしたら今頃ここにはいられなかった) 雪弥は今更ながら胸を撫でおろした。 (良かった、あのとき、救急車を呼ぶのを止めて本当に良かった) 雪弥は自分がまだそこにいられる幸福に涙ぐんだ。

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