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ゼロα②
大山は長いこと髭を剃っていないようだった。モジャモジャが顔面にも広がっている。
警備員がやってきた。
天陽が大山を指さした。
「人里に熊が出てきた」
いかにも怪しい外見の大山に、警備員は一目で不審人物と判断する。
大山は警備員に両腕を取られる。大山は部屋から引きずり出されながら振り向いた。
「テンテン、何で藤堂を大切にしない?」
「この上なく大切にしてる」
「お前らそんな関係じゃなかっただろ。藤堂がテンテンにやられるような関係じゃなかったはずだぞ。むしろテンテンが藤堂のしもべだっただろうが」
「うるせえ!」
「藤堂はテンテンの×××なんだろ?」
「黙れ!」
大山にも威圧が向いたのか、大山はそれきり口がきけなくなって、そのまま玄関へと連れ出されていく。
雪弥は、ベッドの端で固まっていた。
大山が言った×××は、つい今朝、耳にした言葉だった。
雪弥は天陽を戸惑いながら見た。天陽は雪弥の視線に「ん? どうしたの?」と優しく微笑み返している。
天陽は邪魔者はいなくなったとばかりに、ドアに鍵をする。そして、ゆっくりと雪弥に近づいてくる。
雪弥の喉がヒューヒューとかすれ始める。
「雪弥? 大丈夫?」
天陽は心配げに見つめてくる。
結局、雪弥は大山に何一つ問い詰めることもできなかった。天陽の妨害で。
雪弥は目を凝らして天陽を見た。
(これは誰なんだ? この優しい顔を向けてくる男は)
雪弥の頭の中で急激につながっていくものがあった。
『あのバカ、借金がたくさんあったようで』
『あのバカ、絵が売れて大金が入ったようで。借金返してもお釣りが出たようで』
『雪弥の絵を美術室に置いたままに出来ないから、俺の部屋に運ばせておいた。勝手にごめんね』
『テンテンにはいろいろ世話になったからよ』
そして。
『藤堂はテンテンの「Grace」なんだろ?』
――――執拗にアタックをかけ続けたゼロαは、その後の二段階のアタックをもたらす『装置』を用意すればいいだけとなる。
(大山は『装置』でしかなかった………?)
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