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NYの朝

 窓の外には摩天楼が広がっている。朝の陽光にビル群が美しく照り返っていた。  天陽は味噌汁の味見をすると、うん、と頷いた。スマホで株価をチェックしながら寝室に向かう。 (今期も利益が多すぎるな。スタッフのお陰だな。追加報酬を出しとくか)    天陽は投資顧問会社を経営しながら家事全般を担っている。今じゃ奴隷のように雪弥に尽くしている。すっかり雪弥の『Victim』だ。  寝室に向かうと、ベッドでは、雪弥が寝そべっていた。目を覚ましているようだが、まだ起きたくないらしい。  隣に眠る小さな命をさも愛しげに眺めている。小さな命は健やかな寝息を立てている。  雪弥は天陽を見ると笑顔を見せてくる。  その笑顔は今日も天陽の胸を突く。 「おはよう」 「うん、おはよう」  おはよう、と、おやすみ、を交わす仲を12歳のときから続けていて、今日も交わせた幸福を噛みしめる。 「朝飯できたぞ。卵焼きとエッグプラントの味噌汁だ」 「ありがと。俺、お前の味噌汁好き」  雪弥は何に対してでも『ありがとう』と『好き』を遠慮なく言うようになった。以前は、言ったら損とばかりに言わなかったのに。 「天陽も好き」  雪弥は天陽をベッドに引きずり込んだ。  番になった途端、雪弥のほうが積極的になった。性ホルモンが整ったのか、日増しにエロ度が増している。  毎朝毎晩のように求められて、天陽はヘロヘロだ。今じゃ性奴隷のように雪弥に尽くしている。 「ちょ、雪弥」  雪弥はベッドに倒された天陽のズボンを剥いで、天陽のものをむき出しにして、口にほおばっている。 「て、んよう……。てん、ようの、ここも、好き」  雪弥は顔を上げると、床に降り立ち、パジャマを脱ぐ。  極上の微笑を浮かべて天陽の目を見つめながら、ゆっくりと脱いでいく。そんなときの雪弥は、果てしなくいやらしい。 (はああ、こいつめ……)  天陽は今朝も搾り取られることを覚悟した。  雪弥が天陽にまたがってくる。 「あ、はあ………」  天陽のものは入れるのに十分な硬さになっているし、雪弥のも濡れている。 (俺たち、準備に時間がホントかかんないよね) 「てん、てんよう……。てんよう、すき……。すき、てんよう。あっ………」  雪弥は自分で腰を沈めて天陽のものを中に収めると腰を上下に動かした。  そして何と自分の手で胸の突起をなぶり始めた。 (な、なんてことだ……!)  天陽の一物がギュインと大きくなる。 (だ、誰だ! 清純だったこいつをこんなエロビッチにしたのは! あ、俺か)  天陽は上半身を起こすと、雪弥の腕を自分の首に回させた。  天陽は、自分の舌で雪弥の胸の突起をなぶりはじめた。 (この乳首は俺のだ! 二つとも俺のものだ!)  天陽のなぶり方に耐えかねて、雪弥の声はひときわ高くなる。 「あっ、あっ、いいっ、てんよう、ああっ、ああっ」   (な? 俺のものだろ? 俺が育てたんだぜ、この乳首)  何故か天陽は勝った気でニヤリと笑む。 「Im commig! Im comming!」  雪弥が悶えながら英語を口にし始めた。  どうやら日本語で「いく」というのが恥ずかしいらしい。  抑え込んだくぐもった声であるところがたまらない。 (これだけエロいくせに、恥じらうって、雪弥の奴め、どれだけ俺をたぶらかせば気が済むのよ?)    行為が終わって、二人ともベッドに倒れ込む。 (はああ、今朝もすごかった。もう玉ん中、空っぽだわ。夜までに溜まるかな………?)  夜のご奉仕のための心配をするが、精液不足に悩まされたことはない。 (俺も超健康体……)  我ながら呆れた体だ。天陽はそこだけは遺伝をありがたがる。 「授業は?」  天陽は雪弥に声をかけた。雪弥はさっきまで痙攣をおこしたように体を震わせていた。 (いいよなこいつは、空イキできんだもん。玉枯れ心配しなくていいんだもん) 「うん……。今日はゆっくり。なあ、天陽?」  やっと呼吸を取り戻した雪弥は、天陽に問いかけた。 「今更だけど『Victim』って、あれは何でだったの?」 「え、なんで?」 「さっき最中に、『Im Victim』って言ってた」  どうやら雪弥の英語につられて、心の声が英語で漏れてしまったらしい。 「あ…………」  天陽は気まずそうな顔をした。 「あの文字に、ちょっとだけ傷ついてた」  雪弥は天陽を軽くにらみつけてきた。  「あ、あれはさ」  天陽は、中1の臨海教室を思い出した。  あのころはまだ雪弥に対抗心を抱いており、しょっちゅう突っかかってた。  その「クソ生意気な奴」がただっぴろい和室にちょこんと正座していた。  ちょこんとみんなの前に正座して、朝礼を主導していた。 (態度はえらそうなのに、姿はちょこん、だとぅ………?) 「俺の実家の日本間にさ、仏壇があるんだけどさ」 「あのでっかいキンキラキンのやつ?」 「そうそれ、夜中に前を通ると、ちびりそうになるやつ。あれにお供えしてるみかんが」 「みかんが?」  ちょこんとした雪弥に似てたから。  それ以来、雪弥は『供物』として天陽のなかで定着した。  天陽は口ごもる。 (お供え物のみかんが雪弥似だったから。なんて言えないよな?)  ちょうどそこへ、可愛いぐずり声が聞こえてきた。  小さなくせに、やたらと存在感がある。  けれども両親の最中だけは決してぐずらないという親孝行な子だ。  天陽は急いで、ベッドから起き上がった。  腕にこの上なく大事な存在を抱き上げてあやしながら、天陽は首を捻った。 (ん? お供え物なら、Victim、じゃなくて、offering? ん? あれ? え?)  窓からの陽光がまぶしい。今日も良い一日がはじまる。 (おわり)

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