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第41話 おい、番外編とか始めるな!①

 ……ああ、うん。  俺、たぶん――すっごく悪い夢を見てたんだ。  そうだ、夢だ。夢に決まってる。  だっておかしいだろ!?  家に帰ったら、癒しのチビーズが全員マッチョになってるとか!!  なにその筋肉祭り!? どこのギャグ世界!? それ食べられるの!? てか俺死ぬの!?  いや、死ぬ! 物理的にも精神的にも肉体的にも死ぬッッ!!  カムバーーーック!!  俺のショタハーレムうううぅぅぅッ!!!  「……ゔゔ……」  「……なんかユーマ、すっごいうなされてない?」  「すごい汗だな……」  「ご主人様!? 大丈夫ですかっ!?」  誰かに肩を揺さぶられた。  ハッとして目を開けると、アヴィの整った顔がすぐ目の前にあった。真剣な眼差しが、まっすぐ俺を覗き込んでいる。  「……アヴィ?」  「はい。大丈夫ですか? ひどくうなされていましたよ」  低い声に意識が引き戻される。  ふと横を見ると、ベッドの縁に腰かけたガウルが腕を組み、視線だけこちらに向けていた。  「変な夢でも見たのか?」  「……夢……?」  ――もしかして、あれ全部、夢だったのか……?  「ユーマ、可哀想……。オレがぎゅ〜ってして慰めてあげるね♡」  にっこり笑ったクーが、鋼鉄の勢いで覆いかぶさってきた。  そのまま有無を言わせず、抱きしめという名の締め上げ。  「ぐえッ! クー! ギブ! ギブ!! 中身が出るって!!」  必死に暴れる俺を、クーは全く離す気がない。  その腕力、どこから湧いてんだよ……!  「うん♡ 元気になったね♡」  「なってねぇわ……ッ!!」  その時だった。    ――ドンッ!!    寝室のドアが爆音とともに弾け飛ぶ。  「ユーマの兄貴ぃ!! 朝メシの支度ができやしたぜぃ!!」  仁王立ちで現れたのは――ついこの前まで、もふもふ可愛い系だった獣人ちびショタ。  だが今や、見事な筋肉を備えたガチムチマッチョに進化していた。しかも、なぜか裸エプロン。  ……誰だお前。いや、誰だお前ぇぇぇぇ!?!?  ここはガチムチメイドカフェか!?  脳裏に悪夢がフラッシュバックする。  もしかしなくても――  (やっぱり夢じゃなかったーーーーーーッ!!!)  俺の悲鳴が脳内にこだました。  「おいチビ! なんで裸にエプロンなんだよ!?」  「着れる服がねぇんでさぁ!」  その一言に、俺は愕然とした。  ――そうだ。リィノ、リーヤ、ライト、そして元チビたち……。  進化した奴ら、全員サイズが変わってるんだった。  服も、食費も、五倍増。  想像した瞬間、軽く目眩がした。  (……グローデン国王のお古でいいから、譲ってもらえないかな? たぶん、いや、きっとサイズぴったりだろ……?)  もはや冷や汗と乾いた笑いしか出ない俺の横で、アヴィが小さく舌打ちする。  その琥珀の瞳が、元チビを鋭く見据えた。  「……僕たちの寝室は、立ち入り禁止だと言いましたよね?」  低く冷えた声が、静まり返った空気に落ちた。  「……ああ、こりゃ気が利かなくてすみませんねぇ、アヴィの旦那」  しかし、元チビも負けじと応戦する。  「――でも、部屋には入ってやせんぜ? 扉を開けただけっすわ」  肩をすくめ、挑発めいた笑みを浮かべるその姿に、アヴィの眉がぴくりと動いた。  ――ヤバい、このままだと世紀末のゴングが鳴る!  魔改造ベッドが、そのまま筋肉バトル選手権のリングになる……!!  下手したら家ごと核融合で吹き飛ぶ!!  「……おい。やるなら外でやれ」  眉間に皺を寄せたガウルが低く唸り、割って入る。  「へいへい。じゃ、旦那、食堂で待ってやすぜ」  元チビはフッと笑い、肩をすくめて踵を返した。    「ユーマ、お腹空いたでしょ? 一緒にごはん食べに行こ♡」  クーが両手でぐいっと俺の腕を掴むと、ヒョイッと赤子のように軽々抱きかかえた。  「いや、待っ、頭ボサボサだし、顔も洗ってないし、パジャマだし、トイレだって行きたいんですけどーーー!?」  「わかった。じゃあオレが髪を梳かして、顔も洗って、お着替えも手伝って、トイレまで付き添ってあげるね♡」    「いや、介護だろ、それーーー!?」  「……クーさん。ご主人様独占禁止法違反です」  アヴィの真顔ツッコミに、クーはニヤリと笑う。  「じゃあ、みんなで行こ♡」    (待て、待て待て待て。筋肉でぎゅうぎゅうに押しつぶされながら洗面所で身支度とか、どんな罰ゲームだよ!?)  だが、俺の抵抗など――押し寄せる筋肉の津波の前では無力だった。  気づけば洗面所に押し込まれ、ガウルには髪を梳かされ、アヴィにはタオルで顔を拭かれ、クーには身ぐるみを剥がされる始末。  いや、それで済むならまだマシだ。  十中八九、あいつらは「それだけで済ませる」つもりなどない。  どさくさに紛れ、ガウルは髪に鼻を埋めて執拗に匂いを嗅ぎ、クーは脱がせながら「味見♡」と称して首筋を舐め、アヴィに至っては顔だけでなく「汗かいてますね」と言いながら、しれっと体まで丁寧にタオルで拭き始めた。  しかも、指先がやたらと肌を熱く掠める。  ……朝から逆ハー18禁乙女ゲーのヒロインフルコースを味わわされ、もはや魂の半分が抜けかけている俺であった。

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