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第42話 おい、番外編とか始めるな!②
朝の食堂は、甘く香ばしいスープの匂いで満ちていた。
長テーブルの上には、山盛りのチーズ、こんがり焼けたパン、黄金色の蜂蜜とジャム、そして色鮮やかな果物までずらり。――いや、完全に王侯貴族の朝食じゃないか。
その上座、いわゆる“お誕生日席”に、なぜか俺が座らされている。
右の長辺にはガウル、リィノ、リーヤ。左にはアヴィ、クー、ライト。
元チビーズ五人は、まるで訓練された給仕部隊のようにスープと食器を次々と運んでくる。
ちょっと待て。なんだこの厳粛な序列感は……?
右を見ても筋肉、左を見ても筋肉、正面を見ても筋肉。
そのど真ん中、上座に鎮座しているのは――ボスでも魔王でもない、ちょっとだけ癒しの魔法が使える、ただの人間・俺。
いやいやいや、完全に場違いだ。ここ「筋肉戦隊」の作戦会議室か何かですか!?
――しかも誰ひとり「人間を座らせてやってる」感を出さず、全員が妙に自然に受け入れている。
なんなら、明らかに優遇されてる。
俺の存在だけが、この壮絶な筋肉祭りの中で異物すぎる。
やがて、元チビーズたちが手際よく湯気を立てるスープを運んできた。
「兄貴、ちっとばかし熱いもんで、気をつけてくんな」
「……あ、ありがとう」
礼を告げると、チビはにっこり笑った。
……いや、もう“チビ”じゃねぇ。
身長も筋肉も声の低さも、完璧に俺より上。
それなのに、その笑顔だけはあの頃のままで――神々しい“尊さ”と、猛烈な“フェロモン”が同時に殴りかかってくる。
おい待て。笑うな。俺の情緒が崩壊するだろ!!
いつかオロが言っていた、獣人進化のトリガー――“伴侶”の存在と“安らげる生活”。
理屈としてはわかる。確かに俺は、彼らの世話を焼いてたし、居心地もよかった……はず。
でもな、生物としての本能をガン無視して、全員俺の“番”ってどういうことだよ!?!?
この世界の倫理観、どこでバグった!?
百歩譲って鼻からスープは飲めても、尻から子供は産めねぇっての!!
……いや待てよ。
そもそも“ソウルリトリーバル”ってそういう魔法だったのか!?
かつて、人々を救った英雄――“ソウルリターナー”。
彼は幾多の魂を救い、数多の命を繋ぎとめた偉人……の、はずだった。
なのに、後世にその名がまったく伝わっていないのは何故なのか。
もしかして、“ソウルリトリーバル”の副作用で――
あらゆる種族の美形・筋肉・魔獣にまでモテまくり、結果として“名を明かさず逃亡した”んじゃ……!?
オイィィ……ッ!!
もしそうなら文献の隅っこにでも書いとけよ!?
「副作用:モテ期が来ます(※ただし筋肉限定)」とかッ!!
そんなことを悶々と考えていると、腕を組んだままのガウルが低く言った。
「……おい。冷めないうちに食え」
「え?」
気づけば、給仕を終えたチビたちもいつの間にか席に着いていた。
しかも全員、スプーンを手にしたまま、じっと俺を見ている。
誰ひとり、料理に手を付けていない。
(……まさか、俺が食べるまで待ってるのか!?)
「いや、いきなりそんな“王様待遇”とか、やめてくれよ! 頼む、みんな、せめて普通にしてくれ!」
「ダメです。秩序の乱れは心の乱れです。これは共同生活における基本原則です。
もし風紀が保たれず、ご主人様の身に危険が及ぶようなら、僕は容赦なく“排除”しますよ」
「サラッと怖ぇこと言うなよッ!!」
完全に“参謀ポジ”に収まってるアヴィの横で、クーはにこにこ。
その隣のライトは、シマシマ尻尾をゆらゆら揺らしながら、腕を頭の後ろで組んでご機嫌にニヤニヤしている。
(……なんなんだこの温度差)
「そうは言ってもなぁ……」
「……いいんですぜ、ユーマの兄貴」
チビがスプーンを握りしめ、ぐっと身を乗り出した。
「命の恩人である兄貴のためなら、あっしら命だって惜しかねぇ!
魔法省の悪党どもから救ってもらったこの命、これからは兄貴に尽くすために使わせてもらいやす!」
気づけば他のチビたちも涙ぐみながら頷いている。
「「「オッス!! 兄貴ーーーッ!!!」」」
――どこからどう見ても、完全に組ができあがっていた。
(いやもう、俺いつの間に親分になったんだよ……!?)
「……感動の最中すみませんが、スープ、冷めますよ」
アヴィが淡々とスプーンを手に取る。
「ささ、兄貴! あっしらが丹精込めて仕込んだスープ、遠慮せず召し上がってくだせぇ!」
チビがにかっと笑いながら促す。
「うんうん、冷めたらもったいないよ♡」と、クーもにこにこ。
ツッコミたいことは山ほどあるけれど、朝の疲弊した脳が「糖分不足」を理由に、考えることを完全に放棄した。
このままでは永遠にスープに辿りつけない――そう悟った俺は、半ば開き直ってスプーンを握る。
「……はは。あー、うん。なんか、もう……いっか……どーでも」
改めてテーブルを見渡す。
並んで座るのは、生まれも姿かたちも違う、多種多様な種族たち。
――ほんの少し前まで、こんな光景が自分の目の前にあるなんて、想像もしなかった。
けれど今、この小さな輪の真ん中に“俺”がいる。
普通じゃないこの世界で、普通に俺を受け入れてくれるやつら。
バカで、騒がしくて、どうしようもなくカオスだけど――
「……じゃあ――いただきます」
……こんな日常を“悪くない”と思ってる時点で、たぶん俺も、もうこっち側の人間なのかもしれない。
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