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「……俺を好き?」 「うん。驚いた? お前、俺のことを恋愛対象として見たことなかったろ?」 優成は自虐的な笑みを浮かべて横目に俺を見つめた。 「つい、そんな事をレイチェルに相談したんだ……」 なんて言ってあげればいいかわからず、俺は黙って優成の話を聞いた。 「そしたら、次の日の朝、お前のちんこが消えてた」 ──は? 話の急展開に、俺は自分の耳を疑った。 もしかして俺、話の途中寝てたか? 「俺も最初は占いが関係してるなんて考えてなかったんだ。 でもあの日からレイチェルのサイトが無くなって、本人もいなくなってる」 優成の真剣な顔がこの話の深刻さを物語っている。 「お前の体の変化に、レイチェルが関係してるのは間違いないと思う」 俺は放心状態のまま、麦茶でぐちゃぐちゃになったカーペットをただ眺めていた。 濡れたズボンも気持ち悪いのに、いつものように優成の前で着替える勇気はなかった。 「お、俺のちんこが……優成の占い相談の副作用で消えた……?」 口に出した途端、自分でも意味がわからない。 「副作用って言うなよ……」 優成は額を押さえて苦い顔をする。 「いやいやいや!ちょっと待て! この因果関係、ツッコミどころしかないだろ!」 俺は両手をバタバタさせながら叫んだ。 「でも実際そうなっただろ」 「いや事実だけども!」 俺の中で色んな感情がごちゃ混ぜになっていた。 驚き、混乱、そして──ほんの少しの心臓が跳ねるような感覚。 「……でも、お前が俺のこと好きだったってのは、ホントなのか?」 恐る恐る確認するように聞く。 「嘘ついてどうすんだよ」 優成は、まっすぐ俺を見て答えた。 その真剣な目が、普段の般若顔と違ってやけにカッコよく見える。 心臓の音がやけに響いてうるさいくらいだ。 ──やばい、なんか変な汗かいてきた。 「で……で、でも!俺はまだ、優成を恋愛対象として見られるかはわかんないし! ほら俺、童貞だし、風俗も行ったことないし、恋愛経験ゼロだし! これから好きになるかもしれないけど、ならないかもしれないし……」 「世利」 「なに」 「早口で言い訳してんの、可愛い」 「ぎゃぁぁぁぁ?!」 一瞬で顔が熱くなった。 ……なに今の、ずるい。 優成って、こんな甘い顔するやつだったの?! 優成はふっと笑ってから、真剣な声に戻った。 「返事は保留でもいい」 「……え?」 「でもこれからは、お前に気持ち伝え続けるからな」 俺は優成から視線を逸らして、濡れたカーペットのシミを見つめた。 グッと握った拳は、手汗で湿っていた。 優成は、すっと立ち上がって玄関に向かった。 「……帰るの?」 「うん。 これ以上ここに居たら俺が何するかわかんないから」 「ひ、ひぇ……」 優成のあまりの豹変っぷりに、俺は戸惑うことしかできなかった。 「それと、最後に言っとくけど、性転換で困ったら、いつもみたいにちゃんと俺のところに来いよ」 「行けねーよ……」 「駄目だ。お前の精液を出すのは俺の仕事って言っただろ?」 「なっ……!」 心臓はバクバクうるさいし、顔は真っ赤だし、息も荒くなる。 俺のキャパなんてとっくに超えてるのに、優成は真顔で爆弾発言してくる。 ……頭から煙が出そう。 優成は玄関のドアノブに手をかけたまま振り返らなかった。 「……じゃあな」 短くそう言って、ドアの向こうに消えていった。 ──ガチャン ドアが閉まる音が、部屋に響いた。 残された俺はカーペットのシミを見ながら、頭を抱えてゴロゴロ転がった。 「な、なんだよ、あいつ……! お前の精液を出すのは……って、だからそれは風俗嬢なんだよ!!」 顔が熱くて仕方ない。 心臓はドラムロールみたいに鳴りっぱなしで、息苦しい。 「……でも、なんか……嫌じゃなかったな」 思わず口に出してしまって、余計に恥ずかしくなる。 俺は枕に顔を埋めてジタバタ暴れた。 ──ドタドタッ。 ……階下の優成に聞こえてないといいけど。

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