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俺たちは無言のままアパートへ帰ってきた。 夕焼けはすでに夜の色に変わっていて、蝉の声も虫の音に変わっていた。 「お前の家でもいい?」 そんな優成の提案で、話をするのは俺の家になった。 俺としては、別にどっちでもいいのに。 俺はローテーブルの上に二人分の麦茶を置いた。 今日はビールを飲むような雰囲気じゃない気がしたから。 優成はカーペットの上に座り、一口喉を潤し長いため息をついた。 なかなか話始めない優成にしびれを切らした俺は、ずっと気になっていたことを聞くことにした。 「なぁ、レイチェルって何者?」 占い師だということはわかってる。 でもこんなにも優成が探してる人って、いったいどんな人物なんだ。 優成は、一度俺を見てから言いにくそうに口を開いた。 「……レイチェルの正式な名前は、占い師☆見習い魔法使いレイチェル」 「…………」 「…………」 「……え?あ、ごめん、もう一回言って?」 「占い師☆見習い魔法使いレイチェル」 真顔でこの名前を言える優成は、間違いなく正気じゃない。 俺は、そう確信を持った。 「名前から既に情報過多なんだけど……」 「世利の言いたいことはよくわかってる」 俺に手のひらを向けながら優成は俯いた。 「世利は、俺が占い師なんかに相談してることに引いてるんだろ?」 いや、それもちょっとはあるけど……。 「俺は胡散臭いレイチェルの名前にドン引きしてるよ」 そう思うと“トモロウ”の潔さに好感が持てる。 「それで……優成は、なんでレイチェルを探してたの?」 こんな胡散臭そうなやつを。 「レイチェルの占い相談のサイトがあったんだ。 月額4,700円の……結局、突然そのサイトは消えたんだけどな」 「もう詐欺罪だ、それは!!!」 「あの日はめっちゃ酔っ払ってて……俺もよく覚えてないんだけど、相談しちゃったんだ」 「で、何を相談したの?」 俺がそう突っ込むと、優成はしばらく黙ったまま、カーペットの模様をじっと見ていた。 「……世利のこと」 「へ?」 「……お前のことだよ」 優成は低い声で、でもはっきりとそう言った。 俺は一瞬、麦茶を吹き出しそうになった。 「な、なんで俺ぇ?」 「お前のことが……ずっと好きだったから」 ──バシャッ 突然の優成の告白に、俺は持っていたグラスを床に落とした。 ズボンとカーペットに麦茶が染み込んでいく。 アナログ時計の針の音だけが変わらず時を刻んでいる。 優成と視線が交わり、体が動かなくなった。

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