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13-3
優成の言葉が途切れてから、部屋は沈黙で覆い尽くされていた。
時計を見ると、もう夜中の1時になりそうだ。
カーペットの上であぐらをかく優成を、俺はベッドに腰を下ろしたまま見つめる。
次の言葉を待つあいだ、冷めた空気が部屋の隅に溜まっていく。
やがて優成のきつく握られた拳が僅かに緩められた。
強張った肩が一度大きく揺れ、小さく吐いた息が部屋に響いた。
「率直に答えから言うと……」
そんな言葉から優成の話が始まった。
「俺には、ずっと恋人はいなかった」
その答えを聞いたとたん、俺の胸がぎゅっと締め付けられる。
──嘘をつかれていた
悲しい気持ちを押し殺して、俺は優成に問いかけた。
「どうしてあのとき『恋人だ』なんて言ったの?」
「それは……」
優成の顔が苦しそうに歪む。
きっと──ここに真実があるような気がする。
俺は静かに優成の言葉を待った。
そして優成は、俺の顔を見ずにゆっくりと口を開く。
「あれは……ただのセフレだ」
「……セフレ?」
「名前も知らない奴もいる」
優成は、やはり俺と視線を合わせずに、しかし悲しそうに笑っている。
その笑いは、まるで自分を見下すようだった。
「セフレ……」
俺の熱のない言葉が冷たい部屋に響いた。
俺の知らない優成の姿が、胸の奥をチクリと刺してきた。
「……嫌いになった?」
今にも消えてしまいそうな優成の声。
俺は、一度握った拳に力を入れて、優成に告げた。
「嫌いになってないよ」
「え?」
「嫌いになんかならないよ、そんなことで」
俺の言葉に優成が息を呑んだ。
やっと視線が交わったと思った瞬間、すぐに優成は目を伏せた。
「世利、ちゃんと聞け。
俺は、名前も知らない奴と寝てたんだ。
お前の代わりに……適当なやつを……」
言葉の途中で、優成の声が掠れた。
嫌われたくないのに、赦されたくもない。
そんな矛盾した想いが、言葉の中に滲んでいる。
まるで自分を罰しているみたいに──
きっと優成は長い間、罪悪感を抱えていたんだろう。
本当のことを言えば俺に嫌われると思って、何も言えずにいたんだ。
優成の苦しそうな表情が、俺の喉を締め付けるようだった。
「優成、俺ね……」
俺は自分の気持ちを整理しながら、下を向く優成に優しく声をかけた。
「嘘をつかれたことが悲しかった。
なんでも話せる仲だと思ってたから」
短く息を吐き、話を続けた。
「優成にセフレがいたことは驚いたし、ちょっと寂しかったけど……。
でもそれが嫌いになる理由にはならないよ。
まぁ、俺も男だし、そのへんは少し分かるからね」
優成が小さく顔を上げた。
見つめる瞳には、まだ困惑と警戒が混ざっている。
「もし、今もセフレがいるって言うなら話は違ってくるけど」
「今はいない!ここ数ヶ月は誰にも会ってない!」
優成が食い気味に否定してくる。
その姿があまりに必死で、俺はなんだか可笑しくなって笑ってしまった。
張り詰めていた空気が、ようやく音を立ててほどけていく。
「あはは。優成、焦りすぎ」
「は!?それは……焦りもするだろ」
俺は微笑みながら、ゆっくりと優成の手を取った。
その行動に、優成の体が一瞬ビクつく。
まだ冷たく、力の入っている拳。
その温度を確かめるように、俺は指先で包み込んだ。
僅かに震える優成の手が、ほんの少しだけ力が緩んでいく。
「もう、隠し事はなしだよ」
「……わかった」
「優成のこと、信じたいんだ」
「……うん」
「もう他の人と寝ない?」
「寝ないに決まってる!」
必死に声を上げる優成に、俺はまた笑ってしまう。
「あはは!俺、優成が好き」
「…………え?」
優成の唇が僅かに動いたが、何を言われたのかわかっていないような顔をしていた。
優成の隣にいるのって、すごく安心する。
俺、やっぱり──
俺は微笑みながら、もう一度はっきりと胸の奥にしまっていた気持ちを伝えた。
「好きだよ、優成」
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