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俺の告白を聞いた優成は、口をぽかんと開いて石のように固まってしまった。 まるで、優成だけ時間が止まってしまったみたいに動かなくなった。 「優成?……おーい、大丈夫?」 俺は、クスクスと笑いながら優成の目の前で手を振った。 すると、何度か瞬きをしてやっと我に返った優成が俺を見つめ返す。 「お前……マジか」 優成はそう言って、眉間にシワを寄せ怪訝な顔で俺を見てくる。 「なんだよ、何で優成がちょっと引いてんの?」 俺としてもそんな顔をされる筋合いないし、納得がいかない。 告白の返事をしただけなのに。 「いや、だって……あまりにも軽く言うから」 俺の言葉に納得いかないのか、優成の眉間のシワはどんどん深くなっていく。 優成は視線を床に落としながら、静かに言葉を続けた。 「自分で言うのもなんだけど……俺みたいな奴、信用できないだろ? それでも本当に……その……好き、なのか?」 その問いかけは、冗談にも聞こえたし本気にも聞こえた。 どちらにしても、優成の弱気な気持ちを孕んでいる。 「確かに、今のところ100%信用できるかって言われたら、できないかもね」 「ゔっ……だよな」 自分から言ったのに、沈んだ顔をする優成。 ──俺に嫌われたくないくせに。 そんな優成が、とても愛おしく感じる。 俺は笑いながら、優成に気持ちを伝える。 「でも、“恋人”の信用はこれから築いていくもんだろ? 俺たちが付き合うのは、今からなんだから」 そういった瞬間、ようやく優成の肩から力が抜けた。 交わる視線から、優成の安心したような感情が流れ込んでくる。 俺は、まだ繋いでいた手の力を緩めて、お互いの指と指を絡ませた。 「世利……」 優成は消え入りそうな声で俺の名前を呼んだ。 「ん?」 「世利、好きだ」 優成の熱のこもった声が、俺の胸の中で静かに弾けた。 一度目とは重みが違う、優成の告白。 それがどうしようもなく嬉しくて、胸が苦しくなった。 「…………うん」 喉が詰まって、声が出てこない。 ──俺も好き 言葉に出したら、涙も一緒に出てしまいそうだった。 俺はそれ以上何も言えずに、ただ優成に微笑みかけた。 絡んでいた指を解き、俺は優成の頬に右手をあてた。 熱い頬から優成の緊張が伝わる。 「……世利?」 俺は、小さく動く優成の薄い唇を見つめた。 ──キスしたい 優成の唇に吸い寄せられるように、俺は顔をゆっくりと近づけた。 優成の瞳が大きく見開かれた。 反対に俺は静かに目を閉じる。 優成に近づくほど、ドキドキと激しく高鳴る心臓。 頬にあたる息すらも、俺の気持ちを昂ぶらせる。 俺たちは、あと数センチで繋がる……はずだった。 ──バチン!!! 「……ふがっ!?」 俺の顔面に優成の手のひらが覆い被さった。 しかも、鼻が潰れそうな勢いで。 あと数センチで届くはずだったのに、今は押し退けられて、優成の腕の長さだけ離されてしまった。 「ふぁにふんだよ!」 (何すんだよ!) 優成の大きな手のひらに顔面を押さえつけられながら、俺は抗議の声を上げた。 強い力で押さえられてるせいで、俺は優成の指の間からやっと息が吸えている。 隙間から優成の様子をうかがうと、反対の手で自分の真っ赤な顔を押さえていた。 「お前……それはダメだろ」 震える声で優成が訴えてくる。 「ふぁんで!?」 (なんで!?) 今は絶好のキスチャンスだっただろうが! 「だって……俺たち、性的接触はダメなんだろ?」 ──世利さん、これ以上は性的接触はしないで。不完全な呪いだからどうなるかわからない。 俺の頭の中でレイチェルの言葉が蘇る。 「……あっ!」 そうだった……。 俺は呪いが解けるまで、優成とエッチなことはしちゃダメなんだった。 思い出した瞬間、全身の力が抜けた。 俺は優成の手を顔から剥がしながら、力なく項垂れた。 キス寸前まで膨らんだ熱が、今はしぼんで跡形もなくなってしまった。 気持ちが通じ合ったのに触れられないなんて……。 ……あれ?でも、ちょっと待って? ──世利さんが答えを出せば呪いが解ける 俺はそのとき、正式な呪いの解除方法を思い出した。 「告白の返事をしたら、呪いが解けるんだよ!」 俺は勢い良く顔を上げて、目の前の優成を見た。 優成は一瞬きょとんとした顔をして、それからすぐに眉をひそめた。 「本当に呪いは解けたのか? 元に戻った確証はあるのか?」 「呪いは、解けた……だろ?」 俺は自分で言っていて少しだけ自信がなくなった。 優成の言うとおり、本当に呪いが解けた確証はない。 どうしたら確認ができるのかもわからない。 何か合図でもあるのかな。 呪いが解けた瞬間、俺のちんこがまばゆい光で輝くとか……? 俺は自分のパンツのゴムを引っ張り、こっそりとちんこを確認した。 もちろん、光ってる気配すらなかった。 「とにかくだ……」 顔色が戻った優成が、落ち着いた声で俺に話しかけた。 「確実に呪いが解けたとわかるまで、俺はお前に指一本触れないからな」 「そんなぁ!」 優成の理性の塊のようなセリフに、俺は嘆きの声を上げた。 指一本ってなんだよ……付き合う前より距離が遠いじゃん。 「優成は我慢できるのかよ……」 俺の言葉に優成は一瞬ピタリと動きを止めた。 そして熱のこもった視線を俺に向けてきた。 「我慢なら10年してる」 ──ドクンッ! 優成のあまりにも重い告白に、俺の心臓は撃ち抜かれるほどの衝撃を受けた。 一瞬で俺の顔が熱くなるのがわかった。 「そ、そうか……」 優成の真っ直ぐな愛情が伝わり、恥ずかしくて何も言葉が続かなくなった。 俺はポリポリと頬を掻きながら、赤くなった顔をごまかした。 「レイチェルに会いに行こう。 完全に呪いを解いてもらうために」 優成がはっきりと俺に告げた。 真剣な眼差しに思わず息を呑む。 「その後は、もう我慢なんてしないからな」 低く落ちた声に心臓が跳ね、また顔に熱が集まる。 何かの宣告のようなセリフに、喉元がキュッと締まるようだった。 俺の呪いが解けたときは、優成の我慢が終わるときなんだ。 深夜1時半、外は夜の静けさに覆われている。 俺たちの間に生まれた暖かな空気が、まだ部屋に残っている。 本当なら不安になる場面だけど、俺は期待しか抱いていなかった。 それはたぶん、隣に優成がいるから。 やっぱり俺はお気楽に、これからのことを考えているんだ。

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