18 / 52

第18話

でも、家だとよくテンパるよ、と彼は笑った。 「ここしばらくは、塞ぎ込んでたみたいで。全然笑わなかったんだよ」 彼は瞼を伏せ、静かに零した。理由は話そうとしないけど、すぐに二人のお母さんのことだと分かった。 「料理も、家では全然しようとしなかった。だから今のあいつを見てちょっと安心したよ」 陽介さんは台所でてきぱきと動く帷を見て、嬉しそうに微笑んだ。 「迎君。幸耶に料理させてくれて、ありがとね」 「そんな……こちらこそです」 俺が御礼を言うところなのに、逆に感謝されてしまった。 こそばゆくて、少し視線が泳いでしまう。 「叶うならずっと幸耶君のご飯食べたいぐらいでして……」 「あはは! そんなに気に入ってくれたんだ!」 尚さら嬉しいよ、と彼は紅茶を飲んだ。そして急に手を叩き、前屈みになる。 帷に聞こえないように、小さな声で尋ねた。 「実は、迎君に謝らないといけないことがある」 「え。何ですか?」 打って変わって真剣な表情の彼に、ドキッとする。 なにかまずいことをしてしまっただろうか。慌てて姿勢を正し、彼の返答を待つ。 心臓を握られてるような緊迫感の中、陽介さんは深刻そうに呟いた。 「俺はてっきり、幸耶に彼女ができたのかと思ったんだ」 「……え?」 予想外の言葉が返ってきて、反応するのに時間がかかった。 彼女。……帷に。 こっちがフリーズしてることに気付いて、陽介さんは申し訳なさそうに片手を振った。 「そ、その……! 今まで反抗期もなかった幸耶が朝帰りすることが増えて、内心すごく心配してたんだ。恋人を作るのは良いんだけど、いつも家に入り浸ってるとしたら、相手に迷惑かけてないか心配で」 「な、なるほど」 確かに、家に帰らない日が続けば心配だろう。陽介さんからすれば帷はまだ学生で、未成年だ。今ではたった一人の家族だし、気にかけるのは当然。 「それで問い詰めたら、彼女じゃなくて男の友達って言い張るから……どちらにしても、お詫びというかご挨拶をしたくて。それで今日、迎君の家に案内してもらったんだ」 驚かせて本当にごめん、と彼は両手を合わせた。 ようやく大体のいきさつが分かった。いくら仲が良いとはいえ、兄が弟の友達の家に突然行こうとするわけない。 彼の言うとおり突然の来訪はびっくりしたけど。全て弟を心配しての行動だと思えば、むしろ良かったと思う。 帷にこんな優しいお兄さんがいて、安心した。 「本当に、お菓子だけ渡したら帰るつもりだったんだ。そろそろおいとまするよ」 「あ……! 待ってください。せっかくですし、皆で夜ご飯も食べましょうよ」

ともだちにシェアしよう!