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第24話
「風月。ただいま」
「おかえり!」
夜、ドアを開けると大量の野菜を持った幸耶が立っていた。
名前を呼ばれると、まだちょっとくすぐったくなる。……というのは隠して、彼が持ってる野菜を半分受け取った。
「どしたの、これ。超立派な大根と白菜」
「畑やってる親戚が大量に送ってきてさ。家でも色々作り置きしたんだけど、全然なくならないから持ってきた。ここで作っていい?」
頷くと、幸耶は手を洗いながら微笑んだ。
「ありかと。じゃあおかずになりそうなもん作り置きするよ。そうすれば俺がいない日も食べるもん困らないだろ?」
「天使かよ……。ありがとうございます」
優しいにも程がある。幸耶さまを拝みつつ、野菜のカットや下ごしらえは手伝った。
ご飯のおかずもそうだし、弁当にも詰められそうなおかずをたくさん作ってくれた。何種類もの料理が入ったタッパーをテーブルに並べたけど、ものすごく豪華に見えるし、壮観だった。
「これで二週間近く持つよ」
「すごい……お前マジで料理の道に進んだら?」
真剣に言うと幸耶はぽかんとし、それからすぐに吹き出した。
「お前ってほんと単純……じゃないや、素直だよな」
「何だよ~……本気で尊敬してんのに」
冗談を言ったつもりもないのでむくれてると、彼は目を擦りながら頭を撫でてきた。
「ありがと。そうだな……全然考えてなかったけど、候補に入れとく」
そういやお前の胃袋は掴んだしな、と言って彼はタッパーを冷蔵庫に入れていった。そしてうーん、と考える素振りをする。
「よく考えたら永久就職って手もあるよな。最近は専業主夫も増えてきてるし」
「そう来たか……確かに悪くない。奥さんが仕事大好きで稼ぐ人なら」
でも、男同士ならどうなるんだろ。
やっぱり共働きかな。でも専業主夫してる人も、世の中にはいそう……。
「風月は仕事人間になりそう?」
「あ、絶対ないです。できることなら働かずに生きたい」
「ははっ、そりゃそうか。俺も」
幸耶は腹を押さえて、ソファに深くもたれる。
「じゃあ、そうだな。……俺が稼ぐようになったら、面倒見る。……かも」
「わぁ。かもなんて言わず、是非お願いします」
冗談で拍手すると、存外幸耶は悪くなさそうにはにかんだ。
「俺が料理して、お前は掃除とか洗濯とかして、のんびり暮らす。悪くなくね?」
「お……おぉ」
悪くない、どころじゃない。
そんな夢みたいな生活を手に入れたら、幸せのあまりどうにかなってしまいそう。
でも、それってほとんど。
「夫婦みたい」
「だな」
顔を見合わせ、笑ってしまった。
普通なら何馬鹿言ってんだよ、と流すところ。でも俺は、その光景を想像してしまった。
今だけの関係じゃなく。何年先も彼といられたら……。
「幸耶は絶対良い旦那さんになるよ」
でも、そんなこと不可能だから。考えれば考えるほど虚しくなるので、すぐに振り払った。
「優しいし、頭良いし、家事もできる。非の打ち所なさすぎて若干怖いけど……幸せになること間違いなし」
「お前は褒め過ぎ。つうか、結局は相性だろ。ペースや性格が合わないこともあるから、そんな上手くいかないよ」
でも、と幸耶は俺の隣に腰を下ろした。
「何でか……お前といる時が一番落ち着く」
「俺と?」
「あぁ。家族といる時とも、他の友達といる時とも違う。お前の隣が一番心地良い」
幸耶は力を抜き、俺の肩に体を預けてきた。
「ちょ、幸耶」
「何か疲れたのかも……少しだけこうさせて」
肩に幸耶の顔が置かれる。柔らかい髪も少し頬にあたり、くすぐったかった。
あ……。
幸耶の体温。幸耶のにおい。
今までで一番、彼を近くに感じている。
以前同じベッドで寝たことがあったけど、あの時は互いに背中合わせだったから……そこまで気付くこともなかった。
でも今は、幸耶を簡単に抱き締められるポジションにいる。
( このままぎゅーって抱き締めたい……! )
彼の背中に手を回し、悩みに悩む。
もっともたれていいんだって言って、自分の方に引き寄せたい。
それができたらどんなに良いだろう。伸ばした手は、結局床についてしまった。
意気地なしだ。大きなため息をつきたかったけど、幸耶が心配するからこらえた。
代わりに、俺も少しだけ幸耶の方に傾き、寄りかかった。
手は出してないし、これなら合法のはずだ。
もう軽くパニックだけど、二人でごろごろと頭を突き合わせる。
冷静に考えると最高に意味不明な時間。……だけど、この上なく癒された。
「やっぱ、風月って良いにおいすんな」
「ひえ。んなことないよ……汗かいたし」
「そう? ジャンプーの香りかな。香水はしてないよな?」
「してない……てか幸耶君、くすぐったいです」
幸耶はくんくんと俺の首筋を嗅いで、何だろうと首を傾げていた。気になるのは分かるが、汗臭いだろうから恥ずかしいし、距離も近過ぎる。彼の肩を押し、一旦離れようと試みた。
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