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第25話
ところが後ろにもたれすぎて、バランスを崩してしまった。
「わっ!?」
そのまま後ろに倒れ、幸耶を見上げる。
もう少し後ろに座っていたら壁に頭を打つところだったから、危なかった。
でも充分背中は痛い。
「風月、悪い! 大丈夫か?」
「いてて……うん、大丈夫」
何とか起き上がろうとしたが、何故か俺を見下ろす幸耶は中々どこうとしなかった。
何だろう。どいてくれないと起き上がれないんだけど。
不思議に思ってると、倒れた拍子にシャツが捲れ、腹と下着が見えてしまっていた。
「わ。ちょ、タンマ」
「わ、悪い。別に見るつもりじゃなかったんだけど」
と否定しつつ、幸耶は固まっている。俺は恥ずかしいけど、彼がそこまで恥ずかしがることはないのに。
幸耶の顔は、熱を出してるみたいに真っ赤だった。
「幸耶、どした?」
シャツを下に引っ張りながら、フリーズしてる彼の頬に触れる。狭い空間に閉じ込められたみたいだ。彼が覆い被さってるせいで、視界も暗い。
エアコンが壊れたのかと思うほど、身体も熱い。室温が大変なことになってんじゃないか、と本気で焦った。
「具合悪い?」
「いや。むしろすごくいい」
何だそりゃ。
どうツッコんでいいのか分からず、ぽかんとする。
すると幸耶は床に肘をつき、さらに上から俺を覆った。
近い。下手したら息が当たりそう。
逃げられない状況になって初めて、俺達は今とんでもない体勢をしてるのだと気付いた。
もしここで誰かが部屋に入ってきたら。見えるのは、男が男を押し倒している図。
それって中々まずいよな。頭の中でぐるぐる考えていると、不意に頬を撫でられた。
「時々、さ。視線も身体も固まって動けなくなることってない?」
「ん? あ、あぁ……視線はあるかも」
「今、まさにその状況」
幸耶はまばたきもせず、低い声で零した。
「お前のこと見てたら……頭ん中真っ白になって、動けなくなった」
「幸耶……?」
「ごめん。多分、おかしくなってるんだ」
彼は頭を押さえ、苦しそうに顔を歪める。何故かその表情を見た時、俺まで苦しくなった。
「どこにいても、お前のことばっか考えてる。やばいよな」
「それって……」
俺じゃん。
驚きのあまり二の句が継げずにいる。心臓を握られてるような緊迫感の中、固唾を呑んだ。
もう友達という言葉で割り切るには、難しい段階に思える。
幸耶もそれに気付いてるはずだ。だけど、彼は決してそれ以上言葉にしようとしなかった。
「風月。頼みがある」
「な、何?」
「もう少しだけ……このままでいさせて」
彼は俺を潰さないように床に膝をつき、自身の体重を支えた。
ちょっと身じろぎしただけでぶつかってしまうような体勢だ。幸耶も大変だと思うけど、俺も硬直しないといけない。
でも、断ることはできなかった。
「いいよ……」
だって、以前俺も同じことを彼に求めたから。
独りになるのが怖い夜に、彼に縋りついた。彼は俺を抱き締め、朝まで一緒にいてくれた。
あのときの恩返しを今できると思ったら、……宙に向かって手を伸ばしていた。
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