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第65話

「コタ」 大きな身体が優しく抱き締めてくれる。 龍雅さんの香水のにおいが鼻腔を擽り、そして自分の身体へと移っていく。 肩に顔を埋め、そのにおいを胸いっぱいに吸い込んだ。 身体の中にまでにおいが染み付けば良い。 身体の内側からも龍雅さんに満ちたい。 「あの…」 「うん? どうしたの」 「なんで…、抱き締める、だけ…なんですか」 セックスは1度もしたことがない。 したいのかと聞かれれば、確かに少しだけ悩むかもしれない。 けど、それはセックスの際に排泄器を使うことへの若干の抵抗であって、セックスをしたいのもまた本心だ。 どっちが入れるとかは考えてないけど…。 勿論、セックスをすることだけが付き合うってことはない。 それは、きちんと理解している。 なのに、龍雅さんは性的な触れ合いを殆んどしてこない。 あの日──俺が気持ちを伝えた日、抱き締められた時に臀部をまさぐられたのが1番の触れ合いだ。 Aセクシャル…?というやつなのかと考えたこともあるが、直接聞いたことはない。 やっぱり同性だから勃たないと頭で分かっているのと、直接言われるのとでは、受けるものが違うからだ。 少しだけ…勇気が足りない。 けど、もし、そうなら2人で悩みたい。 2人のことだから。 「大切だから」 「…もし、俺のことを考えてくださっているなら、俺は、そんなに弱くありません…」 「弱いのは俺だよ。 俺が弱いから、大切にしたいんだよ」 額に触れる唇を、他の場所でも感じたい。 それは、我が儘なのか。 付き合えただけでしあわせなのに、我が儘になってきた。 そんな自分が嫌だ。 「大切で…大事だから」 狭いベッドでくっ付いて寝る。 抱き締める身体から、ウィッディなにおいがする。 龍雅さんの香水のにおい。 それが大好きだ。 けど、それ以上に、龍雅さんを愛してる。 「俺も、龍雅さんが大切です」 「俺は、愛してるよ」 「え、狡い…」 「ははっ、狡いって…。 コタも言ってくれて良いんだよ」 「ぅ…」 「ほぉら」 「愛して、ます」 中学生の恋愛みたいに隣にいるだけの日々。 それでも、しあわせだ。 人生の中で、1番強く生きていると思っている。 だって、龍雅さんの隣は、こんなにも息が出来るんだから。

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