71 / 111
第65話
「コタ」
大きな身体が優しく抱き締めてくれる。
龍雅さんの香水のにおいが鼻腔を擽り、そして自分の身体へと移っていく。
肩に顔を埋め、そのにおいを胸いっぱいに吸い込んだ。
身体の中にまでにおいが染み付けば良い。
身体の内側からも龍雅さんに満ちたい。
「あの…」
「うん?
どうしたの」
「なんで…、抱き締める、だけ…なんですか」
セックスは1度もしたことがない。
したいのかと聞かれれば、確かに少しだけ悩むかもしれない。
けど、それはセックスの際に排泄器を使うことへの若干の抵抗であって、セックスをしたいのもまた本心だ。
どっちが入れるとかは考えてないけど…。
勿論、セックスをすることだけが付き合うってことはない。
それは、きちんと理解している。
なのに、龍雅さんは性的な触れ合いを殆んどしてこない。
あの日──俺が気持ちを伝えた日、抱き締められた時に臀部をまさぐられたのが1番の触れ合いだ。
Aセクシャル…?というやつなのかと考えたこともあるが、直接聞いたことはない。
やっぱり同性だから勃たないと頭で分かっているのと、直接言われるのとでは、受けるものが違うからだ。
少しだけ…勇気が足りない。
けど、もし、そうなら2人で悩みたい。
2人のことだから。
「大切だから」
「…もし、俺のことを考えてくださっているなら、俺は、そんなに弱くありません…」
「弱いのは俺だよ。
俺が弱いから、大切にしたいんだよ」
額に触れる唇を、他の場所でも感じたい。
それは、我が儘なのか。
付き合えただけでしあわせなのに、我が儘になってきた。
そんな自分が嫌だ。
「大切で…大事だから」
狭いベッドでくっ付いて寝る。
抱き締める身体から、ウィッディなにおいがする。
龍雅さんの香水のにおい。
それが大好きだ。
けど、それ以上に、龍雅さんを愛してる。
「俺も、龍雅さんが大切です」
「俺は、愛してるよ」
「え、狡い…」
「ははっ、狡いって…。
コタも言ってくれて良いんだよ」
「ぅ…」
「ほぉら」
「愛して、ます」
中学生の恋愛みたいに隣にいるだけの日々。
それでも、しあわせだ。
人生の中で、1番強く生きていると思っている。
だって、龍雅さんの隣は、こんなにも息が出来るんだから。
ともだちにシェアしよう!

