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第64話

いつの間にか、龍雅さんは一週間の内の多くの日にちを俺の部屋で過ごすようになった。 箸が増え、歯ブラシが増え、着替えが増え、髭剃りやフォームが増え。 香水や文庫本も増えた。 それらが、どんどん増えていくのが嬉しい。 洗濯物を干すと、自分の服の隣に龍雅さんの服がはためく。 そんな小さなことが、なんとも言えない愛おしさを込み上げさせる。 しあわせは、ありふれた日常に溶け込めば溶け込むほど愛おしさが溢れる。 特別ではないから特別になる。 そんな天邪鬼みたいで可愛いものだ。 まるで龍雅さんみたい。 …なんて、本人に言ったらどんな顔をするだろうか。 「コタ、風呂掃除終わったよ」 「ありがとうございます。 俺も洗濯終わりました」 「なら、少し休憩しようか」 冷たい麦茶を用意し、こういう時の為に買っておいたお菓子を開ける。 窓から吹き込む爽やかな風と、ポカポカの太陽の光。 2人でテレビを眺めながらおやつを食べる穏やかな時間だ。 ゆっくりと流れる時間と、贅沢な空気。 一緒に過ごす時間ほど好きな時の使い方はない。 「このお菓子、美味しいね」 「龍雅さん好きそうだなって思いました」 「うん。 すごく好き」 時々スーパーで見かける銘菓。 ちょっと贅沢なそれを2人で頬張る。 厚みのあるクッキーに、甘いクリームとふっくらと香りの良いレーズンが挟まっている。 サクっとした歯触りの後、バターと洋酒の香りがふわっと口一杯に広がる。 龍雅さんは「美味しいね」と頬を膨らませた。 時々こんなふうに子供みたいな顔を見せてくれる。 色んな表情を見られるのは嬉しい。 その中でも特に好きな顔だ。 「この後どうします? サブスクでなにか観ますか?」 光に当てているマットレスに押し倒され、その隣に龍雅さんも寝転んだ。 頭側の窓の向こうで洗濯物が揺れている。 その隙間から溢れる光で龍雅さんの髪がキラキラして見える。 「このまま昼寝するのも贅沢だよ」 乱れた髪を直してくれるその顔がしあわせそうで、なんでか泣きたくなった。

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