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第66話

隣を歩く琥太郎はいたって“普通”だ。 だけど、普通のってなんだろうな。 昨日とかわらないこと? 落ち着いていること? 誰の基準の話だ。 話しかけようとした口を閉じる。 立ち聞きした罪悪感も相まって、なんとなく言葉を選びすぎてしまう。 青い空に浮かぶ雲も庭先に干される梅干しも今が夏だと伝えてくるのに、なんとなくズレがある。 けど、馬鹿みたいに暑い。 キャップの隙間から汗が伝う。 けたたましく鳴く蝉の音も相まって、油で揚げられているみたいな気分になってくる。 首筋を伝う汗を乱暴に拭って、無理矢理気持ちを切り替えた。 「あお、待ちなさいっ」 「やぁよー」 「服を着なさいっ」 玄関の前から元気な声が聞こえている。 琥太郎は慣れているのか気にすることもなく玄関のドアを開けた。 万が一飛び出してきたら抱き止めた方が良いのか?と考えてる俺とは経験値が違う。 やはり、叔父としての経験値の差だ。 「ただいま」 「あっ! こたろーっ」 パンツ1枚で廊下に出てきた碧は、そのまま走って玄関へとやってくる。 子供らしくて可愛いが、冷房の効いた部屋では冷えすぎてしまう。 せめて、シャツくらいは羽織らなければ心配だ。 だが、自分にも覚えがある……気もする。 裸が好きとかそういう癖の話ではなく、楽しいんだ。 楽しいから好きってだけの話。 「こんにちは。 お土産」 「たかやもっ! すいかだっ! ママーっ、すいか!」 小さなシャツを持った瑠璃子さんは漸く捕まえたとばかりに小さな身体を抱き締めた。 逃がさないとばかりに抱き締めたまま、頭にシャツをかぶそうとしはじめた。 その間嫌々と手を動かす。 流石に俺はここまでではなかった……と信じたい。 「琥太郎、待ってた…」 「相変わらずだね。 碧、鬼にお臍とられるよ」 「おれ、つよいもんっ。 こわくないっ」 「なぁにが強いよ。 夜にトイレ1人で行けないでしょ」 「いけるもんっ!」 「じゃあ、今日は1人で行く?」 「こたろー、たかやぁ、おとまりしよ」 服を着せられた蒼は瑠璃子さんから離れると、ぎゅーっと脚にしがみ付いてくるのが可愛くてたまらない。 お泊まりでもなんでもしてやりたくなる。

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