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第74話
昼飯とスイカを食べ、もう少し川で遊んでから、名残惜しくも帰路につく。
まだまだ遊びたいのは大人も同じだ。
だが、暗くなってくれば自然はまた違う顔を見せてくる。
もっと遊びたいと碧はゴネたが、お家に帰ってご飯食べたら花火という夏の誘惑に納得してくれた。
車が走り出すと、後部座席ではすぐにチャイルドシートに座った碧と瑠璃子さんが寄り添うように眠り込む。
窓の外では、午後の光に照らされて山の緑が後ろへ流れていく。
蝉の声も、川のせせらぎも遠ざかり、車内は少し静かになった。
穏やかで、ゆったりとした時間だけが過ぎていく。
助手席では琥太郎が小さくあくびを噛み殺し、手のひらで目を擦った。
「寝て良いぞ」
「え?
あぁ、大丈夫」
小さい頃とかわらない癖に気が付いていない琥太郎はシートに座り直した。
寝ない為のアイディアだろう。
そんなに背筋を伸ばさなくても、寝ていたって構わないのに。
「鷹矢1人だけ起きて運転なんてさせねぇよ」
「気にしなくて良いのに。
1人で運転なんて仕事でしてるし」
「けど、俺がしたくねぇの」
優しいところが好きだ。
他の友達と同じで違う意味で。
「なら、途中のコンビニでアイス買って食うか」
「悪い大人だな」
「大人の特権だろ」
いつもの笑い合い。
だけど、この夏の光景は、胸の奥にずっと残っていく気がした。
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