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第73話
肉や野菜を焼き、クーラーバッグの中で冷やされた飲み物を飲み、最高の夏を満喫している。
幼い頃の夏休みを思い出す。
ただ暑いというだけで、いつもとかわらず楽しかった。
あの頃も今と変わらず隣には琥太郎がいる。
「コタ、かわるから食えよ。
肉美味いぞ」
「ありがとう。
じゃあ、ちょっと休ませてもらう」
自分の分は小さな物や焦げてきたものばかり食べているので、良い肉を皿にのせる。
別にそれがいけないとか損だとか、そういうことではない。
やっぱり自分が調理すれば、上手に出来たものや大きいもの、美味しいところを相手に食べてほしいと思う。
それは、多くの人がそうだと思う。
だから、周りにいる人が気に掛ければ良いだけだ。
損をしていると思うなら、一緒に分けたり手伝ったりをすれば良い。
物事は、案外シンプルに考えたことの方が意外と最適解の時だってある。
もう1枚、更にもう1枚。
それから食べ頃の玉ねぎも。
「ありがとう」
「俺こそ、先に食わしてくれて、ありがと」
ウインナーが焼けたのを差し出すと、碧は嬉々として取り分けてもらっている。
熱いのを瑠璃子さんから冷ましてもらい、大きな口を開けてかじり付く。
小さな口だと、1口で口がいっぱいになるのが羨ましい。
「うまぁーい」
「美味しいな」
穏やかそうな琥太郎の笑顔。
だけど、どうしてもその裏側を考えてしまう。
琥太郎は見守りながらも、どこかいつもと違う気がする。
なにが違うのかと言われたら難しい。
空気、雰囲気、僅かな表情…とでも言えば良いのか。
ほんの僅かな、俺の主観の違和感でしかない。
だけど、違うんだ。
人の死は、それだけで心に重く響く出来事だ。
それが、大切な人なら殊更。
琥太郎はどれほどのものに呼吸を奪われているのだろうか。
想像することしか出来ない自分が憎い。
炭がパチッと跳ねた。
焦げないようにとうもろこしご飯のおにぎりを焼き、醤油を少し垂らす。
既に最高に美味い焼きおにぎりな訳だが、子供心を忘れない大人には更なる上を目指す為に更なる高みを目指す。
いや、大人だからこそ出来ることだ。
「あ!
ちーずっ!」
「うわっ、絶対美味しいやつ。
鷹矢くん、センス良い」
カロリーは気になるが、毎日のことではないのでノーカンだ。
トロォ…と溶けるチーズが鉄板で焼かれ、香ばしい焼き目へとかわる。
それを碧と瑠璃子さんに渡すと、琥太郎にも手渡した。
勿論、手ではなくトングで。
溶けたチーズは火傷するとかのレベルじゃないから。
「コタ」
「ありがとう。
いただきます」
琥太郎は熱そうに息を吹きかけ冷まし、それから齧り付いた。
まだ少しだけ熱かったのか口元を手で隠しながらも悶えつつも、すぐに2口目に齧り付いている。
その笑顔を見るだけでこちらまで胸があたたかくなる。
たかが焼きおにぎり、されど焼きおにぎりだ。
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