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第72話
「碧はともかく、何歳ですか?
バスタオル多めに持ってきて、ほんと良かった」
「はい…。
すみません…」
「30歳です…」
「おれ、ごさい!」
びっちょりになった3人を前に、瑠璃子さんは呆れた顔をしている。
いや、その前までは爆笑していた。
笑いながらスマホで写真を撮ったり動画を撮ったりしていたのに、急にスン…って真顔になり、これだ。
碧の髪の毛を拭きながら、「2人共焼き担当ね。火の傍にいたら少しは早く乾くでしょ」と指示してきて、2人で素直に頷く。
「ご飯食べてれば乾くでしょ。
車の中濡らしたら、責任もって2人で乾かすんだよ」
「はい…」
とりあえず濡れたシャツを絞り、ある程度の水分を取り除く。
後は太陽光とバーベキューの火、体温頼りだ。
バサッと水滴を飛ばしてから、腕を通し直す。
シャツが肌にぴたりと張り付いて、なんだか少し不快だ。
それでも子供の頃のプールの帰りみたいでどこか楽しい気持ちもある。
あの頃と同じ様に今も隣には琥太郎がいるから。
炭起こしをしはじめた琥太郎は、髪の毛もシャツも、ボトムスまでもがぐっちょりだ。
交代する、とその手からガストーチバーナーを受け取る。
「コンビニまで行ってパンツ買ってくるか?」
「大丈夫。
帰るまでには乾くでしょ」
「悪かった…」
「反省してんの?
めずらし」
「そりゃ、年甲斐もなくはしゃいだ自覚はあるし」
ガストーチバーナーのレバーを捻ると青白い炎が勢いよく噴き出した。
ジュワッと音を立てて着火剤に火がつき、すぐに火種が広がる。
トーチの炎を炭にも当てていくと、一瞬で炭の表面が赤く色づき始めた。
「器用だな」
「んー、まぁ、俺器用だからよ」
「ははっ、自分で言うのが鷹矢の良いところだよな」
しっとりと濡れた髪が太陽光に照らされ、いつもと違う色を見せてくる。
好きだ。
やっぱり好きなんだ。
この笑った顔が。
楽しそうな声が。
少し息を吹き掛け火が消えないことを確認すると、よいしょ、と腰を上げた。
「スイカ洗ってくる。
事務所の裏側の水道使えるんだってよ」
「分かった。
気を付けてね」
「おん」
冷たい水で冷やされたスイカを、ぬるい水道水で洗う。
なんだか無駄なことのようにも思えるが、川の水は決して綺麗ではないから致し方ない。
それに、洗った程度で中までぬるくなる訳でもない。
そう。
見た目と外見なんて、当てにならない。
だからこそ、心配なんだ。
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