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第71話

沢蟹を捕まえ、ご機嫌で瑠璃子さんの元へと見せびらかしに行く背中を見送る。 歩くたびに、川底石がじゃりっと動く感覚も懐かしい。 子供の頃のように高い場所から飛び降りて遊ぶことは出来なくなってしまったが、それでも、川の心地良さが幼い日のことを鮮やかに思い出させる。 琥太郎と何回も飛び込んだよな なんで飛び降りんのが、あんなに楽しいんだろう 危険と紙一重のことが楽しいなんて、スリリングだ。 帰ってきて4ヶ月が経つが、こうした場所に来るとエモーショナルな気持ちになる。 様々な緑色も、けたたましく鳴く蝉も。 都会に染まりにそまりきった身体には、ネオンより鮮やかで魅力的だ。 黄昏ていると、ビシャッと水が飛んできた。 「うわっ」 「ひかおろー」 「ひかえおろう、だよ」 「ひきゃ…、むずかしい…」 飛んできた方向には、悪い顔をした甥と叔父。 ニッと笑って此方を見ている。 田舎には、なにもないなんて嘘だよな 「なら、誤用改め!」 「きゃーっ」 「まっ、パンツまで濡れる…っ」 「成敗! 覚悟致せ!」 水を大きく掬うとパシャッ、パシャッとかけていく。 碧は嬉しそうな顔をして琥太郎の後ろへと回り、叔父を水避けの盾にしながら小さな手で水をかけくる。 間になった琥太郎はビショビショと水を滴らせる。 「なんで…俺を…、ぅわ、挟むんだよ…」 「そこに突っ立ってるからだろ」 「そーだ!」 気が付けば童心……ではなく、本気で子供に返っていた。

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