77 / 111
第70話
大人2人と両手を繋いだ碧は、ぴょんっと両足を浮かした。
まるで囚われの宇宙人のような体制になると、キラキラした笑顔を向けてきた。
「カニ、さがすー」
思わず琥太郎と顔を見合わせた。
子供が子供らしくしている。
大人になると、そんなことが嬉しい。
「お、良いな。
どこにいるかな」
「鷹矢、得意だったよな」
「おんっ。
けど、今はどうかな。
もう、おっさんだし」
イメトレでは捕まえられる。
だが、蟹の早さに身体がついていくかが問題だ。
なにせ、8年もこの豊かさと離れていたのだから。
石の隙間を覗いて見るが、それらしき物は見付けられない。
石の下かと、持ち上げてもなかなか見付からない。
暑くてもっと水温の冷たい所へ隠れているのだろうか。
それとも、人の声に気が付き奥に隠れたのか。
「コタ、沢蟹ってこういうとこにいたよな?」
「いたね。
あっちとかは?
あの、木の枝が垂ってる辺り」
「お、いるかも」
キラキラしている水面から離れた場所へと歩いていく。
水温に慣れれば、ただの心地良い水温だ。
煌めきを掻き分けながら、奥へと進む。
木の影に入ると、そっと覗き込んでみた。
「あ、いた。
碧、ここ」
「どこ」
碧は声を弾ませ、琥太郎の手をひいた。
2人がぱしゃぱしゃと水を蹴立てて進むと、キラキラと水面が揺れる。
楽しそうな2人の顔に水面の反射が写り、とても綺麗だ。
「この石の間。
見えるか?
おっきい声出すとびっくりするから、ちっちゃい声で話してみよっか」
「わぁ…。
ちっちゃい」
キラキラしているのは水面だけじゃない。
碧の無垢な目が、そして、琥太郎の嬉しそうな目がとても輝いている。
「持ち上げるから、手でぱってやるんだぞ」
「できる…!」
「うし、いくそ」
石をゆっくりと持ち上げると碧の手が蟹を掴む。
全力過ぎて、ぱしゃっと水が弾けた。
「つかまえた!!
こたろ!みて!
たかや!ほらっ!」
琥太郎の頬にも細かな水滴が散り、濡れた前髪が額に張りつく。
その顔は碧と同じように子供みたいに嬉しそうで、なぜか俺が嬉しくなった。
ともだちにシェアしよう!

