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第69話
小魚が群れになって、光を反射しながらすばやく泳ぎ去る。
水が綺麗だからこそよく見える。
「お、冷てぇ」
チャポッと足を浸すと水面が揺れる。
気温は高いのに、川の水は冷たい。
足を入れるとひんやりとしていて、体温が溶けていくようだ。
「さんだるは?」
行きの車内で自慢していたお気に入りのウォーターシューズ。
青いストラップが、名前とお揃いだと嬉しそうに教えてくれた。
碧は、それを履いたままで良いのかと不思議そうな顔をしている。
海やプールでは裸足になるから、混乱するのだろう。
水の中からサンダルを履いたままの足を出して見せる。
水を吸ったサンダルは少し重く、思わず足の指に力が入ってしまう。
「サンダルのまま入んの。
碧、滑るなよ」
「うんっ!」
「姉さんは?」
「お姉様は休憩。
最近仕事が忙しくて。
寝てたら起して」
「変なのにナンパされないでよ…。
絡まれたら大きな声出すか物投げて大きな音たてて教えてよ」
「大丈夫大丈夫。
若い男2人もいるんだし」
苔がついた石を踏むと、つるりと滑りそうな箇所がある。
大人は自身の体重と踏ん張りで体制を保てるが、体重の軽い子供は少し不安だ。
握る手に力が入る。
だけど、やわらかな手が痛くないようにも気を付ける。
「こたろーもっ」
「琥太郎もだぞ」
「ん。
今行く」
裾を捲り上げた足でキラキラ輝く水面に足を浸した。
きゅっと顔が変わるのが愛おしくて、碧と笑う。
「はははっ、すげぇ顔がきゅってしてんじゃん」
「いや、思ってたより冷たいし…。
教えろよ…」
「くふふっ、こたろーおもしろい」
碧は琥太郎の手もぎゅっと握りし締めて「もっと奥までいこ!」と引っ張った。
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