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第91話

俺は、決めきれない。 どちらを裏切るのか。 自分が可愛いから。 傷付けたくないなんて上部の言葉を使って、本当は自分が傷付きたくないだけだ。 そんなに自分が可愛いか… 最低だな… 不意に視線を動かすと、写真立てに飾られる幼い頃の鷹矢と自分が視界に入った。 幼い頃、夏休みに、鷹矢のご両親が海に連れていってくれた時の写真。 おにぎりを食べて、バーベキューもして。 楽しかった。 この頃に戻れたら、楽になれるのか。 戻るならいつだ。 鷹矢と無邪気に笑っていたあの夏か。 龍雅さんと過ごした日々か。 ──どちらにだって戻れやしないのに、そんなことにすがってしまう。 龍雅さんを裏切れるのか。 楽しかった日々は過去のものになってしまう。 龍雅さんを忘れることは、2回目の死だ。 龍雅さんも同じ歳になっても、生きてる俺は残酷だ。 そんなの……、そんなの、あんまりだ…。 どうして自分は生きている。 死を知った瞬間に死ねば良かったのに。 苦しいと思った瞬間に死ねば良かったのに。 誰かと笑って死にたいと思った瞬間に、すぐに死ねば良かった。 なのに、生き延びている。 早く死ねよと何度も思うのなら、その度に死ねば良かったんだ。 誰でも良いから、自分の運命を決めて欲しい…。 コインでもなんでも良いから。 『コタ』 「海…」 「こたろー?」 「…ちょっと出掛けてくる」 「いってらっしゃい。 きょーつけてね。」 フラフラと足が勝手に動いた。 「いってきます」

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