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第101話

「ただいま」 「ただいまぁ。 水道借りるわ」 「どうぞ。 お茶とか冷蔵庫に入れとくから勝手に開けて飲んで」 「おん。 ありがとう」 手洗いを済ませ、服で手を拭こうとして視線に気が付いた。 さっと脇に引っかけてあるタオルで手を拭くと、琥太郎は1つ頷いて冷蔵庫のドアを閉めた。 これがセックス前の雰囲気か…? なんかこう……、幼馴染みで甘い空気って…どうつくるんだ… 避妊具にローション。 水分補給用の飲み物も買った。 童貞ではないのに、初体験よりドキドキしている。 1番好きな人とのセックスってだけでこれだ。 けど、それで良いか。 人と比べる必要なんてないんだ。 海は空の色にはなれない。 空は海の色にはなれない。 そして、どちらの色も美しい。 至極当たり前の話なんだから。 まっすぐにそこへと向かうと小さく頭を下げた。 申し訳ですけど、あちらを向いててください そして、忘れ物の腕時計をそっと反対向きにした。 「見んなよ、スケベ」 「なにしてんの?」 「宣戦布告」 「ん?」 龍雅さんに見せ付ける趣味はない。 3Pの趣味もないけど、NTRはちょっと興奮するかも。 少しだけな。 少しだけ…。 なにも知らない顔で、琥太郎はなにしんてんだよと背中をつついてきた。 なにも知らなくて良い。 これは、恋のライバルとしての話だからな。 ライバル…龍雅さんの名前を教えてもらった。 けど、忘れ物はそのまま部屋にあって、きっとにおいも消えていない。 それで良い。 生きるってなにかの積み重ねなんだと思う。 嬉しいこと、楽しいこと、つらいこと、死にたくなること。 絶望が希望を引き立てることもあれば、逆に輝きを失わせることもある。 そういうものが積み重なって、すべてを抱き締めて今を生きている。 琥太郎も、俺も。 なにもおかしなことではない。 その選択なければ、“今”は違うんだ。 「分かった分かった。 早くセックスしようぜ、コタ」 「ば…っ、」 「ほらほら、服脱いでさぁ」 「変態かよ」 「人間みんな変態だろ」 「主語でかくないか?」 しあわせそうに笑う“恋人”とイチャイチャと過ごせる日々がたまらなく愛おしい。 そして、永遠のライバルと共に明日も琥太郎をしあわせにしたいと思える。 人を愛するって尊くて儚くて、すごく勇気のいることで。 そして、自分を好きになれることだ。 「愛してるってことだよ」

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