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プロローグ――銀世界にて

父に手を引かれて行った森で、初めて雪を見た。どこまでも続く雪の白と、空の青と、木々の緑。それが景色の中で混じり合い、世界で一番美しい色になる。 「ずっと前に、この場所を教えてもらったんだ」 父の澄んだ声が、幼い私にそう言った。  銀世界に感動し駆け回る私に、これから毎年一緒に来ようと笑いかけた優しい父は、その年の暮れに病で死んだ。それ以来、雪を見たことは無い。あの日、もし彼に出会わなければ、きっと一生思い出すこともなかった。

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