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第38話 言葉のあとで(完)
「……あんなふうに、みんなの前で言うとはな」
低い声に、透の背筋が固まった。
週明けの夜、蓮の部屋。
透は思わず正座のように座り直し、頭を下げる。
「す、すみません! 困らせてませんか?」
「なんでだ?」
「だって……会社で、しかも男同士で恋愛なんて……。部長の立場も考えず……本当にすみません。俺ってダメなやつですよね」
自分で言いながら、胸がきしんだ。
怖くて顔を上げられない。
少しの間を置いて、蓮は静かに息を吐いた。
「そうか? 俺は……みんなの前で言ってくれたの、なんか嬉しかった」
「……え」
思わず顔を上げると、黒い瞳がまっすぐ自分を見ていた。
からかう色はなく、淡々と告げる口調にだけ熱が滲んでいた。
「でも」
短く続ける。
「次は酔った勢いじゃなくて、自分の意思で言え。……俺の隣にいるのはお前だって」
胸が大きく波打った。
(……部長は、やっぱり……俺を……)
透は唇を噛み、そして震えながら言葉を落とした。
「……はい。次は、ちゃんと……」
蓮の指が伸びてきて、そっと頭を撫でる。
乱暴でもなく、支配でもなく。
ただ確かめるように。
「俺だって不器用だ。うまく言えないし、態度も冷たいかもしれない」
低い声が耳に響く。
「でも……透、お前が好きだ。だから俺の隣にいろ」
その瞬間、胸の奥に絡まっていた不安がほどけた。
涙が零れそうになり、慌てて笑顔に変える。
「……はい。ずっと、隣にいます。……蓮」
その名を呼んだ瞬間、蓮の腕が強く抱き寄せた。
腕の中の温もりが、すべての答えだった。
***
外は冬の夜気に包まれていた。
けれど、二人の間には静かな熱が宿っていた。
思えば最初は、力で従わせられただけで。
嫌悪と混乱と、どうしようもない抵抗ばかりで。
そこにあるのは「矛盾」そのものだった。
けれど今は違う。
たとえ言葉と態度が食い違う瞬間があっても、
たとえまた矛盾のように思える出来事が起きても——
それはきっと、二人の絆を深めるために必要なものだと信じられる。
もう、矛盾じゃない。
隣にいるのは、かけがえのない“恋人”だから。
──完──
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