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第2話
翌日。
案の定藍ちゃんは熱を出した。それもなかなかの高熱だ。部屋に篭り切って侍従に世話をさせているけれど、先程からバタバタと慌ただしい。何かあったのかと不安になるけれど、行くわけにはいかないから不安だけが募る。
「くそ……」
もっと早く迎えに行けていたのなら、と後悔しても遅い。
昔から藍ちゃんは身体が弱かった。成長するにしたがって体調を崩すことは少なくなったけれど、今考えると無理をしていたのかもしれない。あの頃はまだ幾分素直だったからわかりやすかったところもあるし、まだ藍ちゃんの御父様が健在だった。
だからなんだ、と言うわけなのだけれど状況は今よりはマシだったことは確かだ。
「翠」
「えっ!?」
急いで襖を開ければ、そこに居たのは熱で呼吸が乱れている藍ちゃん。ふらふらとしているから抱き留めれば身体は熱く、そして汗ばんでいる。どうして俺のところに? なんて疑問が浮かんでくるけれどそれどころではない。
「今布団敷くから待ってて」
襖を閉め、畳の上に藍ちゃんを座らせる。起き上がっているのも辛そうだ。早く布団を敷かないと。
「行動が、遅い……んですよ、貴方は」
「藍ちゃん……」
「けほっ、早くなさい……僕が横になれないでしょう……?」
減らず口が叩けるだけの余力はあるようだけれど、顔色は当然のように悪く、表情は辛さが滲んでいる。上手く取り繕えないほど具合が悪いんだろうけれど、本人は取り繕っているつもりなんだろう。
「藍ちゃん、動ける?」
「動けます」
そう言うわりには手が震えている。
藍ちゃんの薄い背中と細い太ももの下に手をやり、持ち上げれば抵抗されることなく俺に身を委ねてくる。藍ちゃんは細身とは言え、成人男性。色々とキツイものがあるけれど、此処は耐えたいところ。
何とか藍ちゃんを敷いたばかりの布団に寝かせて、額に浮かぶ汗をタオルで拭う。氷水で浸したタオルでも乗せてあげたいが……
「藍ちゃん」
「静かにしてください」
「はい……」
ふぅ、と藍ちゃんは息を吐いて、目をキツく瞑る。辛そうだけれど、静かに、けれど確かに呼吸をしている。
しばらくの沈黙のあと、藍ちゃんの瞳がゆるりと開く。真っ直ぐに俺を見ると、不快そうに睨みつけてきた。
「何故黙っているんです」
いや、さっき静かにしていろ、と言ったじゃないか。
そう言い返しても藍ちゃんの機嫌を損ねるだけ。余力があるのなら更に言い返されて終わりだ。藍ちゃんは本当そう言うところが理不尽で我儘だから。
「具合が悪い時は静かにしてたほうが良いかと思って」
言いたいことや聞きたいことはたくさんある。どうやって部屋を抜け出したの? 侍女はどうしたの? どうして俺の部屋に来たの? 簡単に思いついただけでもこれほどある。
藍ちゃんは眉間に皺を寄せて、わざとらしく溜息を吐く。溜息を吐いた瞬間に咳き込んだのには驚いた。すぐに咳は治ったけれど、多分俺の部屋に藍ちゃんがいることはバレたかもしれない。
「侍従にはお前の部屋に行くと言ってあります」
「え?」
「まだお前のほうがマシです」
そう言うなり藍ちゃんは少しだけ微笑む。
「さて、何のことだか……」
その意味がわからないわけではないけれど、知らないふりをする俺はずるいと思う。
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