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それから数日後、晶と俺は一か月前に通った横断歩道に来た。ここに来るまで多くの葛藤があった。やっぱり俺は晶に会ってほしくないと思った。でも晶が決めたことだから何も言えず、俺は家から出る時も黙って晶にマフラーを巻かれていた。冬は、いつも晶が俺にマフラーを巻いてくれるんだ。それがなくなるかもしれなくて不安、なんて、言い出せない。晶は俺が好きだと、運命の番と一緒にはならないと言ってくれてるんだから、信用しないと。 最初こそ件(くだん)の彼は現れなかったものの、数十分すると人混みに紛れて気づけば以前のように横断歩道の向こう側に立っていた。ほんとうに待っていたんだ…。どうせならさっさと諦めて来なくなっていればよかったのに。 男の子は俺と晶を見て、いや、正確には晶だけを視界に映して、信号が青になった途端走ってきた。 「あ、あのっ」 俺より少し小さい背の男の子は手をばたばたさせて、顔を赤くしている。なにかを言い出そうとして言い出せないその様は俺からしてもかわいく、俺を苛立たせた。だから俺は見せつけるかのように晶の手を握ってみせた。彼はおそらく見た目からしてまだ高校生くらいだ。大人げないのはわかっている。でも俺としては自分の好きな相手の運命の番、つまりは恋敵なわけだ。何もせずにいられるわけがない。 彼は俺の行動を見て察したらしく、赤い頬を引っ込めてすぐに真顔になった。晶はそんな俺を窘めるでもなく、男の子に向かって声を出す。 「寒いし、どっか入って話そうか」 「…はい」 男の子は大人しく頷く。睨まれている気がするのはきっと気のせいじゃない。 横断歩道から徒歩十分圏内にファミレスがあることを知っている俺たちは男の子を連れて店に入った。入った瞬間、暖房の温かさとハンバーグのいい匂いがふわりと体を包む。あまり話を聞かれたくないからと奥の方の席に座り、俺と晶が隣同士に、男の子はその反対側の椅子に座った。 晶は立てられているメニュー表を開き、男の子に何か食べる?と渡した。優しくしないでよ、とはさすがに言えずに俺は黙ってもう一枚のメニュー表を持ち眺めた。食欲はない。 渡された彼はというと、おずおずとそれを受け取りぺらぺらとめくり、けれども首を振って断りを入れた。 「じゃあドリンクバーだけ入れるね。悠もそれでいい?」 「うん、大丈夫」 俺も食べる気なんて洟からなかったため同意する。店員を呼びドリンクバーを三つ頼むと、さっそく男の子があのと口を開いた。 「僕、西条雪って言います。十七歳です。初めまして」 「初めまして。俺の名前は野田晶です。二十二歳こっちは」 「伊藤悠太です。年齢は晶と同じです」 それぞれ頭を下げて自己紹介をする。雪は俺に邪魔者と言いたげな視線を送ってくるが敢えてスルーをした。実際運命の番の彼らにとって俺は本当に邪魔者なのだから。 俺は視線を気にすることもなく彼を観察した。 色の薄い髪、少したれ目な目、頬はふっくらと丸く幼児のようなかわいさを秘めていた。けれども目はじっとりと俺を見ていて、かわいい割に意思が強そうだと感じる。これが、オメガ。俺の、ライバル。俺は膝の上でぎゅっと手を握りしめた。 「じゃあ雪って呼ぶね」 俺と最初に会った時と同じくさっそく呼び捨てで晶が言う。既に嫉妬しそうになるがどうにか堪えた。 「雪、俺たちは」 「わかってます、運命の番ですよね」 「そう、うん、それ」 「まさか見つけてもらえるなんて思ってもみませんでした。横断歩道で会った瞬間、脳にびびびって電流走った感じがしてびっくりしました。運命の番ってこんな風に見つけるんですね。会えてよかった」 聞かれてもないことをしゃべり続ける雪。

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