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このことは絶対悠には言えないと思った。悠は本人が思っているより心配性なとこがあって、特にオメガ関係のこととなるとひどく不安定になることが多いから。…まるで過去に何かがあったかのように。あえて聞かなかったが、おそらく悠はオメガ関係でなにかあったのだろうと思う。だからこそ余計に、雪と連絡先を交換したことなど言えるはずがなかった。
悠がトイレに立った後のこと。雪は泣きそうな顔で、どうしたら僕のことを好きになってもらえますかと聞いてきた。それに対して俺は、ごめんだけど君を好きになることはないよとはっきり告げた。雪は唇を嚙み締め、下を向いた後、ぱっと顔を上げてじゃあせめて連絡先をくださいと言ってきた。俺はそれにも多少は渋ったけど、僕に恋人ができるまでの期間だけ、相談に乗って欲しいと言われてしまえば、それ以上だめとは言い難くて。多分、その時には既に運命の番という存在に絆されていたんだと思う。俺の心がどれだけ悠の傍にあろうと、本能には逆らえなかったんだ。
それから時々雪から連絡が来るようになった。今日学校であったこととか、バイトで頑張ったこととか、本当に些細なことを少しだけ話してきた。俺もそれに伴って今日何したとかを話すようになった。雪は俺と悠の関係性を壊さない程度に連絡を求めてきた。電話もかけてきたのは一度きり。それのせいで俺はこれは浮気なんかじゃない、彼はそんなことを考えていない、と考えるようになる。もちろんそんなのはただの言い訳で、悠にこの話をできていない時点で後ろめたいと言っているようなものだった。
『今日は昼食で友達にオメガってことを少しいじられました』
『それは酷いな。オメガだから、というよりそもそも雪は人間なんだからいじっていいことじゃない』
『そうですよね。晶さんにそう言ってもらえると嬉しいです』
『またなんかあったら言ってよ。相談くらいしか乗れないけど』
『はい!ありがとうございます』
最後にぺこりと俺たちに雪がお辞儀をする光景が目に浮かぶ。雪のことだ、携帯の向こうでぺこりとお辞儀をしている可能性もある。雪は俺がなにかを言うたびに毎回お礼を言ってくれる。彼は結構律儀だ。
俺が返信していると、悠がカップを片手に隣に座ってきた。今日は悠の家に来ている。悠の家の近くの不動産屋に行くためだ。
悠は今日は特に機嫌がいいみたいでにこにこして口を開く。
「最近ずっと誰かと連絡取っているけど、どうかしたの?」
「え」
「ん?」
悠に言われるまで、俺は雪とのメッセージのやり取りを楽しんでいたことに気づかなかった。そして気づけば雪のことを少しかわいいと思うようになっていたことも。これって、まずいんじゃないか。
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