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俺は不思議がる悠に、咄嗟にヒロちゃんだよ言ってしまった。 「ああ、ヒロさん!もう久しく会ってないよね」 「また店に来てよ、だってさ。今度行かないとね」 「うん!あ、そろそろ出る?」 時計を見る悠。 内心冷や汗をかいていた。ここでもし雪と連絡を取っていることがばれたら、悠がどんな反応をするか…想像に容易い。どうして連絡を取っているの、俺のことが好きじゃないの、と必ず怒るに違いなかった。 この時の俺はまだよくて、悠が不安がるから、と悠のことを一番に考えて言わなかったんだ。 「そうだな、そろそろ出よう」 俺はこれ以上襤褸(ボロ)が出ないように席を立つ。それに合わせて悠も立った。 今日は良いところあるといいね、などと話しながら部屋を出て不動産屋を目指す。予約した不動産屋で席に座り、いい物件がないか探していると、俺たちに合う3LDKの物件を見つけることが出来た。敷金礼金もそこまで高くないものの築年数はそこまで経っておらず、広さもちょうどいい。エアコンも完備でトイレ風呂別だ。しかも家賃が安い。もしかして事故物件?と思って聞いてみたが、駅からそれなりに遠い為あまり人気のない物件なのだと担当者は説明してくれた。 「この部屋なら今契約キャンペーン中で一年間は家賃が一万円引きさせていただいてますね」 「「ここにします!」」 悠と声が重なって、顔を見合わせて笑い合う。そんなお得なキャンペーン乗るしかない。そのまま契約までして、引っ越しは一か月後に決まる。年明けな為少し料金が嵩(かさ)むが、その分家賃が安くなるならまかなえると考えた。 不動産屋を出てほくほく顔で二人で話し合う。 「いい物件あってよかったね!」 「そうだな!あとは引っ越し業者に連絡して…」 「お互い部屋片づけないとだね」 「忙しい一か月になりそうだ」 よっしゃ、がんばるぞ!と腕をぐっと構えてえいえいおーと腕をあげると悠が楽しそうに笑った。そうだ、俺は悠のこの笑顔が好きなんだ。柔らかくて、俺を癒してくれるかわいい笑顔。俺はその笑顔が愛おしくて仕方がなくて街中なのに悠を抱きしめてしまった。 「ちょ、晶!」 「あ、ごめんごめん」 悠に言われて慌てて放したが、手は離さなかった。なんとなく照れくさくなって下を向けば、悠もそうだったようで差し障りのない言葉を選んでいる。 「あ、そ、そうだ。今日ヒロさんのところ行く?」 「え」 「だってお誘い来てるんでしょ」 さっきの話だと気づいて、どう乗り切ろうか考え…結果、行くことになった。そんな話したっけと言えばなにかしら疑われるだろうし、ここ数ヶ月ヒロのところに行っていないのは事実だからだ。きっとヒロなら余計なことは言わないだろう。時間も夜に差し掛かっている。もう既にヒロのバーは開いている頃だ。

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