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結局その日は無言ながらも晶と一緒のベッドで寝た。晶は終始俺のことを気遣って、なにかあればすぐに抱きしめてくれた。そのおかげか次の日には機嫌もほとんど直り、普通に過ごすことが出来た。でも数日は晶が雪にマフラーを巻く瞬間が繰り返し脳内で再生され俺の気分を何度も害する。その度に俺は晶を抱きしめたりして心を落ち着けさせた。
記念日の十日も過ぎた休日。店が休みだというヒロに声を掛けられ出かけることになった。晶も友達と会う予定があると言うので、今日はお互い別行動を取ることになる。
待ち合わせはヒロのバーの前で、俺が着く頃にはヒロは既にバーの前に立っていた。気分が落ち込み気味であったものの、それを悟られないようにおはようございますと大きめの声で挨拶したつもりだった。
「おはよって…どうしたの。浮かない顔して」
ヒロは俺に会った瞬間俺に何かあったと悟ったようで、俺の頭をぽんぽんと叩いてくれた。俺は自嘲気味にちょっと…と言う。せっかくヒロが誘ってくれたのに暗い顔なんてしてちゃいけない、と俺はでも大丈夫ですと続けた。ヒロも何かを察したのかそれ以上何も言わない。
「そう…?じゃあ、今日は買い出しに付き合って欲しくてさ」
バーではヒロ自身が軽食も作っているからそれの買い出しだろう。俺ははい、と答えてヒロの後に続いた。
しかし買い出し中もあの時の光景がふとした時に蘇り俺を苦しめる。何度も、何度も。その都度忘れろ、晶は俺のことが好きだと言ってくれてるんだ、嫉妬するのは晶に失礼だ、と頭の中で言葉を反芻させた。しかしそれも逆効果のようで、ひどく暗い感情が俺の中を満たしていく。そのうちヒロの会話もままならなくなり、結局彼の行きつけの雰囲気の落ち着いた喫茶店に連れていかれてしまった。
「悠太くん、もう一度聞くけど…どうしたの。暗い顔してるよ」
「…すみません、せっかく誘っていただいたのに」
「それはいいんだよ、気にしなくて」
ヒロは無理しない程度に話してと言ってくれる。俺は言われた通り無理のない程度で雪の話をした。ヒロは俺が話す間うんうんと軽い相槌だけを打つだけで話の腰を折ることはしなかった。
話し終わると、ヒロは小さく舌打ちをした。
「あいつの悪いところだよ…。優しくて情に厚い。いいことかもしれないけど、恋人がいるところでする行動じゃない」
「俺、嫉妬しちゃって…ダメなんでしょうか。晶のことは信じたいと思っているのに」
「信じると嫉妬は別物だよ。そんな行動取られたら誰だって嫉妬する。特に、俺たちにはバース性があるんだから。だから悠太くん、キミは悪くない」
「ありがとう、ございます」
思わず泣きそうになったが、鼻をすするだけに収めた。
やっぱりあの行動は誰がどう見たっておかしいんだ。俺が嫉妬するのは、おかしいことじゃないんだ。晶を信用しているのに、こんな風に泣きそうになってしまうことは、変なことじゃない。
俺は確認するように手をぎゅっと握りしめた。
「キミは晶のことが好きだから嫉妬してしまうんだ。それを、忘れちゃだめだよ」
「はい」
もう一度ありがとうございますと言って頭を下げた。
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