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第9話
それから数日後、晶と俺は一か月前に通った横断歩道に来た。ここに来るまで多くの葛藤があった。やっぱり俺は晶に会ってほしくないと思った。でも晶が決めたことだから何も言えず、俺は家から出る時も黙って晶にマフラーを巻かれていた。冬は、いつも晶が俺にマフラーを巻いてくれるんだ。それがなくなるかもしれなくて不安、なんて、言い出せない。晶は俺が好きだと、運命の番と一緒にはならないと言ってくれてるんだから、信用しないと。
最初こそ件(くだん)の彼は現れなかったものの、数十分すると人混みに紛れて気づけば以前のように横断歩道の向こう側に立っていた。ほんとうに待っていたんだ…。どうせならさっさと諦めて来なくなっていればよかったのに。
男の子は俺と晶を見て、いや、正確には晶だけを視界に映して、信号が青になった途端走ってきた。
「あ、あのっ」
俺より少し小さい背の男の子は手をばたばたさせて、顔を赤くしている。なにかを言い出そうとして言い出せないその様は俺からしてもかわいく、俺を苛立たせた。だから俺は見せつけるかのように晶の手を握ってみせた。彼はおそらく見た目からしてまだ高校生くらいだ。大人げないのはわかっている。でも俺としては自分の好きな相手の運命の番、つまりは恋敵なわけだ。何もせずにいられるわけがない。
彼は俺の行動を見て察したらしく、赤い頬を引っ込めてすぐに真顔になった。晶はそんな俺を窘めるでもなく、男の子に向かって声を出す。
「寒いし、どっか入って話そうか」
「…はい」
男の子は大人しく頷く。睨まれている気がするのはきっと気のせいじゃない。
横断歩道から徒歩十分圏内にファミレスがあることを知っている俺たちは男の子を連れて店に入った。入った瞬間、暖房の温かさとハンバーグのいい匂いがふわりと体を包む。あまり話を聞かれたくないからと奥の方の席に座り、俺と晶が隣同士に、男の子はその反対側の椅子に座った。
晶は立てられているメニュー表を開き、男の子に何か食べる?と渡した。優しくしないでよ、とはさすがに言えずに俺は黙ってもう一枚のメニュー表を持ち眺めた。食欲はない。
渡された彼はというと、おずおずとそれを受け取りぺらぺらとめくり、けれども首を振って断りを入れた。
「じゃあドリンクバーだけ入れるね。悠もそれでいい?」
「うん、大丈夫」
俺も食べる気なんて洟からなかったため同意する。店員を呼びドリンクバーを三つ頼むと、さっそく男の子があのと口を開いた。
「僕、西条雪って言います。十七歳です。初めまして」
「初めまして。俺の名前は野田晶です。二十三歳こっちは」
「伊藤悠太です。年齢は晶と同じです」
それぞれ頭を下げて自己紹介をする。雪は俺に邪魔者と言いたげな視線を送ってくるが敢えてスルーをした。実際運命の番の彼らにとって俺は本当に邪魔者なのだから。
俺は視線を気にすることもなく彼を観察した。
色の薄い髪、少したれ目な目、頬はふっくらと丸く幼児のようなかわいさを秘めていた。けれども目はじっとりと俺を見ていて、かわいい割に意思が強そうだと感じる。これが、オメガ。俺の、ライバル。俺は膝の上でぎゅっと手を握りしめた。
「じゃあ雪って呼ぶね」
俺と最初に会った時と同じくさっそく呼び捨てで晶が言う。既に嫉妬しそうになるがどうにか堪えた。
「雪、俺たちは」
「わかってます、運命の番ですよね」
「そう、うん、それ」
「まさか見つけてもらえるなんて思ってもみませんでした。横断歩道で会った瞬間、脳にびびびって電流走った感じがしてびっくりしました。運命の番ってこんな風に見つけるんですね。会えてよかった」
聞かれてもないことをしゃべり続ける雪。イライラするが、本当に嬉しいと言う気持ちが伝わってきてなにも言えなかった。雪はすでに俺なんて見えてないようで、視線は晶に釘付けだった。晶はしゃべり続ける雪をどうすることもせず、ただ話させている。そのうち彼が出会ったときの感動を話し終わると、今度は晶が口を開いた。
「ありがとう、雪。でもごめん、俺には今付き合っている人がいるんだ」
「…その人、ですか」
さっきまでの天真爛漫な表情を隠し、雪が俺を睨む。俺はひるむことなく雪の視線を受け止めた。雪にとって俺は邪魔者でも、俺にとっては雪の方が邪魔ものなんだ。それを、視線で訴える。
彼は俺から視線を離すと、眉根を寄せて本当に困ったという顔をする。
「でも、運命の番は結ばれるべきです。付き合っている人には申し訳ないけど、僕たちの邪魔をするのはどうかと思う」
その言い草にカチン、ときた。
「邪魔って何。申し訳ないけど、っていいながらえらく上から目線な言い方だね。君にとっては周りは全部邪魔者なんじゃないの?」
「そこまで言ってないし…」
「ふぅん。でも邪魔って言い方、付き合ってる人に失礼っていうのが考えられない時点でかなりのお子様だよ」
高校生相手に、なんて考えられなかった。ただ、こいつは俺にとって敵だとしか。
彼がぐっと黙り込むと、晶がまぁまぁと間を取り持ってきた。
「でも雪、悠のいうことも一理あるよ。邪魔、なんて言っちゃいけない。たとえ運命の番であっても今付き合っている人とさっさと別れて君と付き合う、なんてことできないんだ。俺と悠はきちんと思い合ってここにいるんだ」
「でも、じゃあ、僕はどうすればいいんですか」
そんなの知ったことか、と言いかけてさすがにそれは非道が過ぎると思い口を閉じた。
「君もいつか、俺じゃないいい人が見つかるよ」
「僕は、晶さんがいいです」
「困ったね。俺はそれにこたえられないよ」
晶も困った顔をして、でもしっかりと答える。黙り込む二人の間に重苦しい空気が流れる。
…心配してついてきたけどこれなら全然大丈夫そうだ。晶はしっかり俺との関係を大事にしてくれていて彼の問答に応える気はないようだし。それに安心したせいか急に尿意に見舞われた。
「ごめん、トイレ行ってくる」
「あぁ、行ってらっしゃい」
晶に断りを入れて席を立つ。
用を足して席に戻ってみれば、さっきの重苦しい雰囲気はどこへやら、二人は携帯を片手に楽し気に話していた。彼への警戒心を少し緩めていた俺は、なんの話してたの?と気軽に聞く。雪は俺が戻ってきたことに不満そうだったが、晶は笑って答えてくれた。
「雪、文化祭でタキシード着たんだって。その写真が似合わなくて思わず笑っちゃってさ」
「え、なにそれ」
「晶さん!言わないでって言ったのに!」
「見せてよ雪くん」
「嫌です、悠太さんには見せません」
生意気なところは変わらないがかわいげもあるなと感じ、見せてよと再度言ってみたが断られてしまった。円満、とまではいかなくてもどうにか決着をつけたらしい二人に安堵し、その後は普通に過ごすことが出来た。
ドリンクバーで少し喉を潤し、三人でファミレスを出る。
「じゃあすみませんでした」
ぺこりと雪が俺と晶にお辞儀をして、帰って行く。今度はちゃんと俺のことも視界に入れていた。
俺と晶は手を繋ぎもと来た道を帰って行く。家に帰って、俺は玄関先で晶に謝罪をした。
「晶ごめん」
「えどうしたの急に」
「俺、晶を疑うようなことしてたなって気づいて…」
不安だから一緒に会いに行く、なんて浮気されるかもと疑っているのと同義だ。どう考えても気持ちのいい言動ではなかったと反省する。晶はそんな俺を咎めることなく、優しく抱きしめてくれた。外で冷え切った体が、晶の高めの体温で溶けていくのを感じる。
「いいよ。俺も会いに行くなんて不安にさせてごめんな。もうこんなことないから」
「うん…」
晶が、俺のあごに手をかける。そっと上を向かせられ、キスを施された。少し口を開ければ舌が入ってくる。くちゅくちゅと音を立てながら舌を絡み合わせれば晶が俺の上着を脱がしにかかった。
そのまま首にキスをさると欲情のスイッチが入る。晶の首に自分の腕をひっかけキスを強請った。彼は惜しげなく俺にキスをすると、視線を合わせて、鼻をかぷりとかじってきた。晶はこの行為が好きで、よくセックス中も鼻を噛んでくる。俺は晶のそのかわいいじゃれ合いが大好きで、よくやってとせがむことがあった。
鼻と鼻を摺り寄せ合い、何度もキスをする。晶はそのうち我慢できなくなったのか、俺を抱き上げ寝室に向かった。ベッドに寝かされると、心臓が期待からかどくどくと音を立てる。雪のことがあってからどうにもする気になれず、最後にしたのは一か月前だ。
すべての服をを脱がされると、晶が俺のソレを咥えてきた。今までにないほど早急なその行為に俺はあられもない声を上げてしまう。
「あ、あき…っやぁ…」
「かわいい、悠」
俺が嬌声と共に言い切れず”あき”と呼んでしまうことが彼は好きらしく、よくかわいいと言われる。俺はそれが恥ずかしくて仕方ないのに、もっと呼んでとせがまれてしまうと呼んでしまうんだ。
「あきら…あき、あき…」
体を丸めて俺のを咥えている晶の頭を抱え込む。でも晶の動きは止まることはなくて、俺は早々に精を吐き出させられてしまった。もちろん精液はすべて飲まれている。これもいつものこと。
丸めていた体を解くと、晶は俺の乳輪を舌でいじくりまわしてきた。くすぐったく、でも気持ちいいその行動に俺は喘ぎ声を出さずにはいられない。そして油断していた右側のを指先でこねられてひゃあっと一際大きい声を出してしまうと、晶がくすくすと笑う声が聞こえた。
「わらわ、ないでっ」
「ごめん、悠がかわいくてつい」
乳首の辺りで笑われると息がかかってこそばく感じ、もう、と言いながら今度は晶を押し倒した。のしかかり、キスをする。でも晶はアルファなこともあって体が大きく、すぐにひっくり返されてしまった。襲ってやろうと思ったのに、そう言えば晶はまた笑う。これは俺の目標だった。いつか晶を押し倒して俺のスキルであんあんさせてやるのだ、と。もちろん今のところそれが叶った試しはない。いつも俺はマグロで、晶に喘がされてしまうのだ。
今回もそうなんだろうな、と思ってこれからの快感に身を任せようとした時。部屋で携帯が鳴った。リリン、リリリン、と着信音が暗い部屋を引き裂いて響く。一度ぴたり、と動きを止めた晶だったが、気にせずまた行為を続けようとする。いいの?と小声で聞いたが、晶はいい、と言って俺にキスをして先を促してきた。
そのうち音は鳴りやみ、晶は俺の蕾に自身のそれを打ち付けてきた。俺は小さく悲鳴を上げて次に来る快感に目をぎゅっと瞑る。嬌声は徐々に大きくなり、俺はただひたすら泣き喘いだ。
寝ぼけまなこで、晶が誰かと電話する声を聞いた。親し気、とは言い難いその話し声に、だれぇと声を出す。すると晶は優しい笑みでこちらを振り返り、俺の目元をそっと抑えた。暖かなその手に安心感を覚え、俺はまたゆっくり眠りについた。
「…わかったよ、雪」
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