11 / 46
第11話 【アルロード視点】釈然としない
「兄さん」
「おや、心配しているというのに酷い言い方をする」
「悪ふざけは大概にしてください。自分の身分を考えてくださいよ、殿下が軽々しく彼らを疑うような言い方をしたせいで誤解されて、彼らが不利益を被ったらどう責任をとるおつもりですか」
「ここには私達しかいないんだから、そこまで神経質にならなくても……私は少し大げさに言っただけでまるきり嘘というわけでもないんだ、これくらいいいだろう」
「ダメに決まっているでしょう」
「だがさっきの反応を見るに、アルロードはそのオメガを気に入っているわけだろう?」
「オメガではなくルキノです。彼と話すのは楽しいので、確かに友人として大切に思っていますが」
「そうかそうか。ルキノとやらに恋愛感情を抱いているわけではないんだな。それもそうか、相手は別の男を好いていて、しかもその親は違う男との縁談を探しているんだものなぁ」
「……っ」
「殿下!」
「そう目くじらを立てるな。アルロードがそのルキノとやらを思っているのなら、父親を止めてやるべきかと思っただけだ。だが、取り越し苦労だったようだ」
「貴方が口出しするような事じゃないでしょう。貴方は世話好きな仲人趣味の夫人ですか、まったく。手も口も出さないでください。こういうのは周りが騒ぐものじゃないんです!」
「わかったわかった。悪かったなアルロード、変な勘繰りをして。彼の事は友人として大事にしているだけで、別に恋愛感情は持っていないという事だな。いやぁ、悪かった」
「殿下!!!! アルロード、ここにいたらからかわれるだけだから、もう行きなさい」
殿下を睨みつけて圧をかけながら、兄さんが僕を促す。
「はい……」
ニヤニヤしているイオスタ殿下のお顔からは、いったい何がしたくてこんな事を言うのかを推しはかる事もできない。
釈然としないまま、僕は御前を辞すこととなった。
***
邸に戻ったものの、胸がモヤモヤとして気が晴れない。
あれから会場に戻るなり様々な人物から話しかけられダンスに誘われ、なんとか躱そうにも囲まれていてはどうしようもない。結局はルキノには会えなくて、僕は色々と消化不良な感情を抱えたまま帰路に就くことになったのだった。
今日は思いがけない情報がたくさん入りすぎて、何が自分の感情をこんなにも乱しているのかが分からない。
自室で温かいお茶を飲みながら考えに耽っていたら、コンコン、とノックの音がした。
「アルロード」
「兄さん?」
慌てて扉を開けたら、兄さんが申し訳なさそうな顔で立っていた。
「大丈夫か? 今日は殿下が悪かったな」
「いえ……でも、なぜイオスタ殿下はあのような事を? そもそも、殿下には関係がないだろう事をなぜご存知なのかも不思議で。何もかも分からないことだらけでちょっと混乱しているんだ」
「そうだよな。本当に申し訳ない」
兄さんが言葉通り、本当に申し訳なさそうに眉を下げる。
「なぜ兄さんが謝るのかも分からない」
「いや、実は……」
気まずそうな顔をした兄さんが、言いにくそうにぽつりぽつりと話し始める。
どうやら夜会で父母と共に兄さんが王族にご挨拶に伺った際に、僕の話題になってしまったらしい。僕にもそろそろ恋人のひとりやふたりできたんじゃないかという陛下の軽口をきっかけに、ぼくが婚約者を決めてくれと言って母に泣かれた話で盛り上がったらしく、殿下が興味を持ってしまったと。
世間話みたいにそんな話をしないで欲しい。
しかも王族と。
呆れる僕に、兄さんはさらに申し訳なさそうに頭を下げる。
「ごめんな、止められなくて」
しかもそんな話をしているところに、僕がルキノに声をかけたのが見えたものだから、ますます話が盛り上がってしまったのだという。
僕は知らなかったけれど、なんでもルキノは社交界では注目の人物だったらしい。
数が少ない男性オメガ。
しかもオメガと判定されたというのに、転科せずに今も騎士科に所属しているというのはかなり珍しい。
さらに父親が『護衛として扱ってくれていい』なんて条件で結婚相手を探している。
本人は夜会に出ても相手を探すでもなく、男女問わず雑談を交わし楽しげにしているものの、色恋の雰囲気はみじんも見せない。
そんな噂の人物に、僕が親しげに声をかけたものだからその場は沸きに沸いたらしい。
「多分彼はこのごろアルロードが学園で仲良くしている友人だと思う、恋人のような特別な関係じゃない筈だとちゃんと説明したんだが」
「ありがとう……!」
兄さんにルキノの事を話しておいて良かった。
以前、僕がこのところ楽しそうだと言ってくれたから、ルキノやドルフと仲良くなったこと、ルキノが話してくれる『あのお方』の話を聞くのがとても楽しいと伝えたことがあったのだった。
これまであまり特定の人物と行動を共にしなかった僕の変化を兄さんは喜んでくれていたから、それで夜会の時に僕が声をかけた人物をルキノだと判断してそう言ってくれたんだろう。
「だがイオスタ殿下は私の言葉だけでは納得してくれなくてね。あんな事になってしまった」
ともだちにシェアしよう!

