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第10話 【アルロード視点】どういう意味でしょう

「随分アルロード様と親しくなったようですね」 迫力の美人、コーラルブレ公爵家の三女アンリエッタ様だった。 「アンリエッタ様!」 「無事にお役目を果たせているようね。このところアルロード様がとても楽しそうで、わたくし達も嬉しいわ」 「光栄です!」 「けれど、先ほどは何を話していたのかしら。アルロード様があんなに負の感情を表情に乗せることは滅多にないでしょう? 気になってしまって」 「あー……すみません、オレが誤解させちゃったから」 「誤解?」 そうしてオレは、アンリエッタ様たちにさっきのアルロード様との会話をかいつまんで話してみる。 「そう、それではアルロード様は、貴方がお父様から社交も封じられ意にそまぬ相手に売り飛ばすように嫁がされそうになっているように思われたのかも知れないわね」 「実際にオメガにはそういう話も多いのですもの、無理もありませんわ」 オレがオメガ性の話をしたからだろう、いつの間にかユーリア様も前に出てきて、話に加わってくれていた。 「はい。でもアンリエッタ様やユーリア様みたいに美人なら、確かにそういう事もあると思うんですけど、オレはこの通りぱっと見全然普通の男ですし、むしろ父は相手を探すのに苦労してると思うんですよね」 「そんなこと」 「そうよ、自分を卑下するものではないわ」 「事実なんで。それにオレ、まだ自分がオメガだって事にしっくりきてなくて。嫁って名目でもいいから誰かの護衛ができるなら、その方が嬉しいんだって、アルロード様にもお伝えしたんですけど」 「……可哀相に。オメガであることを受け入れ切れないでいるのね」 ユーリア様が痛ましい表情でオレを見る。そんなに優しい顔されると、ちょっと泣きそう。 「わたくしやアンリエッタ様は母もオメガで、子供の時からオメガだろうと言われて育ってきて心構えも教育もうけてきたからそれなりに覚悟ができていたけれど……突然オメガと宣告された方の精神的負担はとても大きいでしょう」 「特に貴方は、騎士という道も絶たれたのですものね。心中は如何ばかりか……」 事情を話したせいでアンリエッタ様やユーリア様にまで心配をかけてしまった。 そんなつもりじゃなかったのに。オレは慌てておふたりに笑って見せる。 「あの! オレが諦め悪くてちょっと受け入れるのに時間がかかってるだけなんで、お気になさらず……! それよりも、さっきのご兄弟が並んだお姿、見ました!? 眼福でしたね!」 「ルキノ様……」 「……そうね、お二人ともとても素敵だったわね」 アンリエッタ様もユーリア様も優しいから、心配そうな顔をしつつもオレの苦しすぎる話題転換に乗ってくれる。 アルロード様の話題で和気藹々と話せば、じょじょに他の人も加わっていつもの楽しい情報交換の時間が始まった。 この時間だけはオメガだとか将来だとか、そんな面倒なことなんて全部忘れて、キラキラ輝くみたいな気持ちになれる。 みんな笑顔で、楽しくて。 こんな気持ちを与えてくれるアルロード様に、オレは深く深く感謝した。 イオスタ殿下が呼んでいる、なんて言うから、何かあったのかと若干緊張したというのに、話してみれば大したことのない内容で拍子抜けする。 こんな事ならルキノとの話を優先させたかったくらいだ。 まさかルキノがオメガで、あんな悩みを抱えていただなんて思いもしなかった。 いつも瞳をキラキラさせて『推し』だという『あのお方』の事を楽しそうに語っているから、人生を思う存分楽しんでいるかと思っていたのに。 まだ会場にいるだろうか。 「ところでアルロード」 どうやって御前を辞そうかと思っていたら、イオスタ殿下から声がかかる。 「このところ、随分と親しい友人ができたそうじゃないか。どうやらオメガの子らしいね」 「えっ」 驚いてしまって思わず声が出た。 間違いなくルキノの事だろうが……なぜイオスタ殿下がそんな事まで知っているのかと疑問に思う。僕ですら彼がオメガだった事なんて今日初めて知ったというのに。 「大丈夫なのか? もう少し危機感を持つべきだと思うが」 「殿下!」 イオスタ殿下の傍に立っていた兄さんが、咎めるような声を発するけれど、僕はイオスタ殿下の意図が分からず途方に暮れる。 「どういう意味でしょう。彼に何か嫌疑でも?」 「そんな大層な話ではない、単なる老婆心だ。アルロードは将来有望なアルファだからね。彼に下心がないとも限らないだろう? 事故でも起こったらコトだ」 殿下の口ぶりに、僕は衝撃を受けた。 「ルキノはそんな野心がある人物ではありません。そもそも僕の方から彼に話を聞かせて欲しいと頼んだんです。……それに、彼にはとても大切な、心を捧げる御仁がいますので」 ルキノが誤解されていることが悔しくて思わずそう答えたら、イオスタ殿下はなぜか意味ありげに微笑んだ。 「ああ、そうらしいね。けれど彼の父親が彼の縁談を纏めようとしているらしくてね、護衛と思ってくれて良いなどと嘯いてかなり必死なようだと小耳に挟んだものだから、私としては親友の弟が妙なことに巻き込まれないかと心配になってね」 「大丈夫だと言ったでしょう。アルロードは貴方と違って素直に育っているのです、変な勘ぐりや口出しは控えていただきたい」 殿下にぴしゃりとそう言ってから、兄さんはオレの肩をぽんと軽く叩いて微笑んでくれる。 「アルロード、気にしなくていい。このお方はやっと色恋沙汰に関心を寄せ始めたお前をからかいたいだけの大人げないダメな大人だ。本心では別にルキノ君やその御父君の事を悪くなど思っていないから、本当に心配しなくて良いからな」

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