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第9話 オレの明るくない将来
それに、オメガである以上誰かの妻になるんだろうし、オレみたいなハンパなオメガ、どこぞのおっさんの第二夫人とかの可能性が高いだろう。
ウチは裕福な訳でもないし、父さんも相手を探すのに苦労しているに違いない。
「父も多分、オレの事思ってそう言ってくれてると思うんですよね……」
「!?」
思わず漏れた言葉に、アルロード様はこっちがびっくりするくらい驚いた顔をした。
「どういう、事?」
「オレ頭悪いし、ガキの頃から騎士になるのが夢だったから……今更急にオメガだって言われてもどうしたらいいか分からなくて……もう騎士にはなれないけど、オメガだと冒険者や他の職業もなかなか厳しいし」
騎士という職業は、そもそもオメガを採用しない。男だらけの職場だし、管理職にはアルファも多い職場環境はオメガにとって危険すぎるし、三ヶ月ごとにヒートで一週間以上身動きがとれないんだ、遠征に組み込むのが難しい。
オメガになった時点で、オレの夢は完全に潰えたわけだ。
騎士科を卒業して上級貴族の護衛や傭兵、冒険者になるヤツも一定数いるけど、オメガのオレにはそれも難しいだろう。
オメガである以上ヒートは年々キツくなるから、今はさほど苦しくなくても結婚は絶対にした方がいいって医者から説明された。
父さんが結婚相手を探しているのもそのためで、オレみたいな別に美人でもねぇオメガは年をとればとるほど貰い手がいなくなるから、今のうちに相手を探すって言ってた。
急に就職先にも困ってしまったオレには、それを止めることもできない。
うちの家系にオメガが出たのは初めてで、オレも混乱してるけど家族だって充分に混乱してる。そんな中で父さんも母さんもオメガについて聞きかじってきては対策を練ろうとしてくれてるんだと思うんだ。
父さんはあんまり話がうまい方じゃないから、本当は本心はあまり分からない。
オレがオメガだって分かってから、急に「お前はオメガなんだから、夜会では大人しくしていろ」って言われるようになった。「お前はオメガなんだから、俺が結婚相手は探してくる。騎士科にいたければ事故だけは起こすなよ」そんな風に釘をさされる。
今まで放任気味だったのに、急に口うるさくなった父さん。
いつも心配そうに、可哀相な子を見る目で優しく話しかけてくる母さん。
気まずそうな弟。
オレがオメガなんかになっちゃったせいで、家の空気は随分と重くなってしまった。
面倒な事になった、って思われてるかも知れない。
でも、それを面と向かって言われるのが怖くて、皆を困らせてるのが申し訳なくて、オレはなんでもないような顔で過ごすしかできないんだ。
「オレもまだ自分がオメガだって事にしっくりきてなくて。せっかく剣の腕を磨いたんだし、嫁って名目でも誰かの護衛ができるなら、その方が嬉しいんです。もしかしたら父は、そんなオレの気持ちに気づいて、あんな事を言ってるのかも」
希望的観測を口にして笑って見せる。
「……」
まだ腑に落ちない顔をしているアルロード様は、しばらく考え込んだ後、オレをまっすぐに見つめてきた。
「ルキノ、君は」
「アルロード!」
オレに何かを言おうとした瞬間に、アルロード様を呼ぶ声が響く。
そんなに大きな声でもないのに妙に響く声だなぁと思って声の方へ視線を向けて、オレはちょっとびっくりした。
だって。
アルロード様にそっくりなこのお方は……!
アルロード様に少し年齢を足して、さらに筋肉を余計に付けたらこうなりそうっていう美丈夫。麗しのアルロード様のお兄様、リエルライダ様だ。
渋い色気が加わって、これもこれでめちゃくちゃにカッコイイ……!!!
「兄さん」
「話を遮って悪いね、だがイオスタ殿下がお前をお呼びだ」
「僕を? 珍しいね」
小首を傾げるアルロード様、可愛い……!!!
しかもアルロード様と未来のアルロード様が目の前で語らっているという、素晴らしい光景を前に、オレはもう震えて見蕩れるしかなかった。
最高。
オレは今日、これからの人生における運を使い切ってしまったかも知れない。
この尊い瞬間をなんとか網膜に焼き付けておけないだろうかと必死で見つめる。脈がバンバンに上がって、もしかしたら鼻血くらいでちゃうかも……という不安を覚えていたというのに、某かを話していた二人が、同時にオレの方を見てくるから、オレはもう心臓が止まるかと思った。
「ルキノ、申し訳ないんだけど呼ばれているみたいで……話はまた明日」
「はい!!!」
オレは満面の笑顔でアルロード様を送り出す。アルロード様はなんだか複雑そうな表情でお兄様と共に去って行った。
王族に呼ばれるアルロード様すごい!!!
そっか、公爵家だもんね!
イオスタ殿下って王太子様だよね。これまでも夜会で何度か話しているのは見かけたことがあるけれど、直接呼ばれるくらい親交が深いのか。
アルロード様と会話するようになってから、今までみたいに遠巻きに見ているだけじゃ分からない事をたくさん知ることができた。
オレは本当に幸運だ。
感動に打ち震えているオレに、新たに声がかかる。
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