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第13話 今日もアルロード様は優しくて麗しい

「でさ、本っっっ当に麗しくて!!!」 話す言葉にも思わず力が入る。 「もうね、あのお方のお兄様もとにかく格好いいんだよ……! あのお方が数年たったらこんな感じかなって思えるみたいにキリッとした顔でさ、さらに筋肉隆々なんだよ。鍛えたらあんなになるんだね」 「あー、めちゃくちゃ有名だったもんな。そろそろ分隊長に昇格するんじゃないかって言われてるよな」 「うわぁ、さすがだなぁ!! その麗しいお兄様とあのお方が、オレの目の前で語らってるんだよ!? もうさぁ、最高オブ最高!!! あまりにも神々しい光景でさ、オレもう震えちゃったよ……!」 「あーハイハイ、良かったね」 いつも通りのドルフの適当な相槌もまったく気にならない。オレは今日も今日とて食堂で、ドルフを相手に昨日の神がかった光景を力説していた。 「もうもうもうもう本っっっ当に尊くってさ!!! この瞬間をなんとか網膜に焼き付けておけないだろうかって本気で思ってさ、もう目に全神経を集めてガン見してたんだけど!!!」 「お前もうちょい自重しろよ……」 「無理~……!!! しかもさぁ、二人同時にオレの方見てくるからさ、オレもう心臓が止まるかと思った」 「止まらなくて良かったな」 「うん、生きてることに感謝。あんまり尊い光景だったもんだから、そのあとの皆さまとの推し語りがはかどるはかどる。もう思いっきり盛り上がったよね」 「良かった、ルキノは今日も元気だね」 麗しい声が降ってきて、見上げたらアルロード様がキラキラの笑顔で俺を見ていた。 おお、今日もがっつり肉がマシマシで乗ったプレートだ。アルロード様もそのうちお兄様みたいに筋肉マシマシの騎士になるんだろうか。 それもメシウマ、と思いつつ、オレは満面の笑みで声を張る。 「もちろん元気です!」 断言するオレを見て、なぜかアルロード様がホッとしたみたいな顔をする。 なんで? と不思議に思っていたら、ドルフが身を乗り出してアルロード様に愚痴り始めた。 「良かった、待ってましたよ。こいつ、いつにも増してうるさくて」 「ははは、通常運転で安心したよ」 なんだかわかんないけど、上機嫌なアルロード様、笑顔が素敵。 推し語りたいことがまた増えてしまった……とうっとりする。昨日からもう、ドキドキがとまらない。 なんて思ってたんだけど。 今オレは、さらにさらにドキドキかつハラハラの困った状況に置かれていた。 何がどうしてこうなったのか、オレは今、アルロード様と一緒に、アルロード様のお部屋で膝をつきあわせているのだった。 アルロード様に「座っていてね」と言われておっかなびっくり腰を下ろしたソファは、ふんわり柔らかいのにしっかりとお尻を支えてくれる、極上の座り心地。 さすが公爵家……! ソファひとつとっても格が違う。 どうやらここはアルロード様の私室らしく、オレはもうガチガチに緊張していた。 アルロード様の私室、めっちゃ高貴。ゴテゴテした調度品なんてなくて、シンプルだけれど質が良いと分かる机やベッド、ソファセットが部屋を彩っている。 アルロード様、センスいいなぁ。身につけている物も筆記具とかもシンプルでかっこいいのばっかりだもんな。さすがアルロード様、 なんて感動してたら、なぜかメイドを下がらせたアルロード様が手ずからお茶を淹れてくれた。 え、待って。オレ、死んだの? こんなとんでもない幸運、三回くらい生まれ変わって徳を貯めないと無理じゃない? 本気でそう思った。 「い……いただきます」 せっかくアルロード様が淹れてくれたお茶だ。大切に味わおう……。 震える手で恭しくカップを持ち上げ、ゆっくりと口をつけたら、馥郁たる香りが鼻腔をくすぐる。 「……すごい、香り……花の蜜みたいに甘い……」 「面白いだろう? 花蜜茶といってね、熟れた果実のような、甘い蜜のような香りが特徴なんだ」 「飲み口は甘いのに、後味はスッキリしてるんですね。オレ、こんな紅茶初めてです……!」 さすが公爵家! そして、さすがアルロード様! アルロード様が淹れてくれると言うだけでも相当にレアで、オレにとっては一生の宝物にしたい記憶になるというのに、さらにこんなに香り高い素晴らしいお茶だなんて。 最高……もう今死んでも後悔はない。 「ルキノ、その紅茶と一緒にこれを食べてみないか? レモンカードのタルトレットだよ」 「うわ、おいしそう……!」 アルロード様が勧めてくれたのは爽やかなレモンイエローが目に鮮やかな、可愛らしいひとくちサイズのタルトレット。控えめな焼き色も相俟って、なんとも美味しそうだ。 食べてみて驚いた。 ほんのり酸味があるレモンカードは甘さ控えめで、紅茶の甘い香りを引き立ててくれる。味も香りも爽やかで、紅茶との相性が抜群だ。 「すごい……」 「絶妙に合うだろう?」 「はい! こういうの、相乗効果っていうのかな。紅茶の甘い香りとレモンカードの爽やかさがお互いを引き立て合ってる感じで……一緒に食べると美味しさが増す感じがします!」 「気に入ってくれて良かったよ」 嬉しそうに笑うアルロード様、神々しいほど麗しい。

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