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第14話 聞きにくいこと
しかもオレごときにこんなに素敵なもてなしをしてくれるだなんて、アルロード様はどれだけ聖人君子なんだ。最高すぎて讃える言葉が見つからない。
とにかく幸せ過ぎて丁寧に丁寧に味わっていたら、アルロード様がなんだか照れくさそうな笑顔を見せた。
なにその照れ顔、最高かよ……!
「君のためにと思って選んだものを喜んで貰えるというのは、思っていたよりもずっと嬉しいものなんだね」
「……………!!!!」
心臓を打ち抜かれたかと思った。
この素晴らしいお茶とタルトレットを、オレのためにわざわざ選んでくれたというのか。
しかもオレが喜んでくれたことが嬉しい、なんて……オレの推し、心が綺麗すぎて泣ける。
感動に打ち震えながらも表面上は普通の顔を心がけ、なんてことない雑談をしながらお茶とスイーツを堪能するだけで精一杯だ。
きっとオレの今日のこの素晴らしい日を忘れることはないだろう……!
心のアルバムのトップページに今日の思い出を飾るんだ! と内心意気込んでアルロード様を見つめていたら、なんだかいつもよりも瞬きや目を逸らす頻度が多いことに気がついた。
あれ? オレ浮かれてたけど、もしかしてアルロード様、オレに言いたいことがあるのかな。
そう思いついたら絶対そうだって気がしてくる。
いつも話す時にはドルフも一緒なことが多いのに、オレだけ自宅に招かれたんだからそりゃそうだ。つまり、学園やドルフの前じゃ聞きにくいことがあるってことだろう。
うわ、超緊張してきた。
でも何か聞きたい事があるとはいえ、公爵家の子息であるアルロード様がこんなにも気を遣ってくれてるんだ。オレが話せることならなんでも誠心誠意答えたい。
目を逸らしていたアルロード様がオレをチラッと見てきたから、オレは覚悟を決めて、促すように小首を傾げた。
「その……ルキノ、実はちょっと気になっていることがあるんだ」
やっぱり。
内心ドキリとしたけれど、平静を装って笑顔を作る。
「はい」
「立ち入ったことを聞くようで申し訳ないんだけれど、その、ルキノはオメガなんだよね?」
ああ、その事か、と納得した。確かにバース性の事は聞きにくいだろう。
そう言えば夜会の時にバース性の話が出たもんな。それに、よく考えたらお兄さんに呼ばれる前、アルロード様は何かオレに言いかけてたような気がする。
オレにとっては嬉しい話題じゃないけど、だからこそ真摯に答える必要があるんだろう。
思わず苦笑が漏れた。
「そうですね、残念ながらオメガです」
オレの言葉に、アルロード様が悲しそうに眉を下げる。
その顔を見てハッとした。
しまった、卑屈に聞こえてしまっただろうか。そんな顔をさせたいわけじゃないのに。
「あ、あのオレ」
「すまない、こんな事を聞くべきじゃないとは思ったんだ。でも、考えれば考えるほどどうしても心配になってしまって……できることならば正直に答えて欲しい」
「は、はい」
あまりにも真剣な顔でそう言われて、思わず生唾を飲む。
「ルキノ、君は自分がオメガだという事に馴染めないと言っていたね」
オレが頷くのを確認してから、アルロード様は言葉を継いだ。
「それなのに……君の言った通り、御父君は結婚相手を精力的に探しているようだ。しかも既に妻を持っている御仁を優先的にあたっていると聞いて……まだ気持ちも固まらないうちに性急に事が進むと、ルキノは辛くないのか?」
そう問われて、オレは咄嗟に声が出なかった。
アルロード様に問われたら、何でも誠実に答えようと思っていたのに、この質問はオレにとって即答できるほど簡単なものじゃなかった。
自分自身ですら、自分が本当はどう思っているのか分からない。
向き合いたくなくて、目を逸らしていたのかも知れない。
それでも、アルロード様がオレの事を心配して真剣に聞いてくれているのが分かるから、オレはこの問題に向き合わざるを得なくなってしまった。
声すら出なくて口を無駄に開けたり閉めたりしているオレを急かすでもなく、アルロード様は辛抱強くオレの答えを待っている。
「辛くない……と言ったら嘘になる、と、思います……」
絞り出した声は、そんな言葉を綴っていた。
「ただ、その……オレも本当に複雑な心境で……正直言えばオメガの自覚もハンパなのに嫁ぐなんて嫌だけど……でも学園を卒業したらオレ、就職もできなくて家族に迷惑かけるだけだし、情けなくて惨めだろうって思うと……」
学園に通ってる間は楽しくやれてるけど、同期の奴らが騎士になって活躍する姿を見たら、多分オレは奴らが羨ましくて悔しくて、きっと平静じゃいられない。
同期からは取り残されてやることもなく、家族からは不憫だと思われて腫れ物に触るように気遣われる中で、身の振り方を悩む日々を送るのは、それはそれで辛いだろう。
「もし本当に『嫁』って言いつつ護衛みたいに扱ってくれる人がいるなら、オレ、その人に嫁ぎたいかも。ちょっとは誰かの役に立ってるって思えるし」
オメガであるオレがどう扱われるのか、想像がつかないわけじゃない。
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