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第20話 【アルロード視点】僕の『推し』はルキノだ

彼はこれまで有耶無耶にしていた事を真剣に考えて、もう行動を起こしたのかも知れない。 自分の人生を、決めてしまったかも知れない。 もしかして、ものすごく悩んで、今頃眠れぬ夜を送っているのかも知れない。 そう思うと心配で、目を閉じてもルキノの顔が思い浮かぶ。 やっと眠れてもさっきみたいにルキノの夢を見て飛び起きてしまうのだから、自分でも重傷だと思う。 結局僕は、かなりの寝不足を抱えたまま登校することとなってしまったのだった。 アカデミーに行ってしまえば朝から色んな人に話しかけられて、少しは気が紛れる。ルキノやドルフとはクラスも違って基本的には別の授業だ。 けれど時々合同演習があって、そんな時にはルキノ達を見る事ができるんだと、ここ数ヶ月で気がついた。 きっとルキノもこうした合同演習で、大切な『あのお方』の姿を目にしているのだろう。 ルキノもドルフも基礎も体幹もしっかりしていて、剣の速度も速い。特にドルフは上背もあるからか一撃が重いようで、相手もなかなか苦戦しているようだ。 対してルキノは剣の軽さをスピードで補っている感がある。力では押し負けるのが分かっているからだろう。ちょこまかとよく動きまわって相手を翻弄している。あれだけ動いて疲れも見せないところを見るに、スタミナも相当あるんだろう。 こんなにも鍛えて、僕の目から見ても将来有望だというのに、オメガだというだけで騎士の道が閉ざされてしまうのか。 暗澹たる気持ちで見ていたら、打ち合いを終えたルキノが僕に気づいて笑ってくれる。 良かった。いつもの笑顔だ。 それだけで僕の気持ちは満たされて、昨夜の悪夢も溶けていくみたいに気持ちが楽になった。 ルキノが笑っていられるならそれでいい。 そう考えて、ふと思い当たる。まるでいつものルキノの言葉みたいだ。 ああ、そうか。 どうやら僕は、ルキノの熱い思いを聞いているうちに『推し』への愛を理解できたらしい。 そして、僕の大切な『推し』はルキノなんだと気がついてしまった。 そう分かってしまうとルキノを見るだけで胸が高鳴る。 なるほど、ルキノは大切な『あのお方』を見る度にこんなに胸がバクバクと踊っていたのか。それは確かに、他の人に打ち明けてこの湧き上がるような衝動をなんとかしたいと思うかもしれない。 けれど、胸の中にそっとしまっておきたくもあるような、不思議な感情だ。 合同演習が終わるまで、僕はそっとルキノを盗み見ては胸の震えるようなざわめきを享受していた。 こんなにドキドキしていて、顔を合わせた時に普通にしていられるのだろうか。 ルキノはどうしていたんだろう。 そういえば、ルキノはいつも「遠くから幸せを祈っている」と言っていた。つまり、日常的に接するわけではないということだろう。 確かにこんなに心臓が高鳴っていては、側に寄るのも難しい。 でも、笑顔を近くで見たいし話したい。 なんて難しい感情だろう。誰かを特別に大切に思う気持ちに慣れていない僕には、持て余しそうな大きな感情。 それでも食堂に行ってルキノの楽しそうな顔を見れば、妙な事をしでかさないかという不安よりも、会えた嬉しさが上回る。 おすすめメニューを手に近づけば、今日もルキノの元気のいい声が聞こえてきた。 「分かってないなぁ。オレはあのお方が愛する人と幸せになるところを陰ながら応援したいんだ。あれだけ優しくて思いやりに溢れた方だから、きっとあのお方を笑顔にしてくれる、素敵な人と出会える筈だと思うんだ」 「はいはい」 そして相変わらずおざなりなドルフの返事。 それが不思議と楽しそうで、なぜかちょっとだけ焦りを感じた。 「やあ、ルキノは今日も元気だね」 平静を装って声をかけたら、ルキノが満面の笑顔で振り返ってくれる。 顔色もいいし、声にも張りがある。瞳はいつもに増してキラキラしていて、ああ、昨日はちゃんと眠れたんだなと安心した。 ホッとするぼくの顔を、ルキノはまじまじと穴があきそうな程に見つめてくる。 やがて心配そうな表情になったルキノはポツリとこう言った。 「アルロード様、もしかしてゆうべ、眠れませんでした……?」 「えっ、いや、そんな」 なぜバレた!? 他の誰からもそんな指摘は受けていないのに。 慌てて否定すると、ルキノはますます心配そうな顔になってしまった。 「目の下にクマがあるし、いつもより疲れてる感じがします。もしかして、オレが心配かけちゃったから……?」 「いや、違うんだ。ちょっと考えたいことがあって……ルキノのせいではないよ」 こっちが勝手に心配して眠れなかっただけだ。断じてルキノのせいではない。 どうやら素直に納得してくれたらしいルキノは、バッグの中をゴソゴソ探ったかと思うと、可愛らしい小瓶を取り出した。 「そうだ。これ、もし良かったら使ってください」 「これは……?」 「なんか、リラックス効果があるらしいです。眠る前に使うとよく眠れるって聞いたから、オレも時々使ってて」 ルキノ……!!! 本当に、君はなんて優しいんだ。

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