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第19話 【アルロード視点】悲しくて

「でね! あのお方が優しすぎてさ、オレはもう絶対にあのお方が幸せになれるように頑張ろうって思ったんだよね」 翌日。 家族と腹を割って話せてスッキリしたおかげか、オレの舌はもう絶好調だった。 よく眠れたし、きっとそのうちいいことあるさなんて、なんだかすごく前向きな気持ちになれている。それもこれもアルロード様のおかげだ。 アルロード様を崇める言葉にも力が入るってもんだろう。 「ふぅん。それだけ親身になってくれるなら、結婚しちまえば良いじゃないか。好きなんだろ?」 事もなげにドルフが言うけど、そんなわけにいくかよ。 「分かってないなぁ。オレはあのお方が愛する人と幸せになるところを陰ながら応援したいんだ。あれだけ優しくて思いやりに溢れた方だから、きっとあのお方を笑顔にしてくれる、素敵な人と出会える筈だと思うんだ」 「はいはい」 「やあ、ルキノは今日も元気だね」 オレがドルフを相手に昨日のアルロード様の御心ばえを力説していたら、アルロード様が現われた。 今日も輝く笑顔が美しい……! と思ったら。 なんだかいつもよりも元気がない。というか、目の下にクマが……? 「アルロード様、もしかしてゆうべ、眠れませんでした……?」 「えっ、いや、そんな」 「目の下にクマがあるし、いつもより疲れてる感じがします。もしかして、オレが心配かけちゃったから……?」 「いや、違うんだ。ちょっと考えたいことがあって……ルキノのせいではないよ」 そっか、そりゃそうだ。オレなんかの事で眠れないほど悩むなんてある筈ないもんね。ていうかそんな事があったらオレは自分が許せないだろう。 アルロード様が何に悩んでいるのかは分からないけれど、少しでも健やかに過ごして欲しい。 「そうだ。これ、もし良かったら使ってください」 オレは手持ちの香り瓶を手渡してみる。 「これは……?」 「なんか、リラックス効果があるらしいです。眠る前に使うとよく眠れるって聞いたから、オレも時々使ってて」 「ありがとう、今夜早速使ってみるよ」 そう言ってアルロード様は嬉しそうに笑ってくれたあと、ふと心配そうな顔でオレを見た。 「ルキノも眠れない夜が沢山あるんだね」 しまった……! また心配させてしまったのか。困ったオレは慌てて昨夜の話をした。 「あ、でもこれからは大丈夫です。ゆうべ今後の事について家族とも話せましたし! アルロード様のおかげです。ありがとうございました!」 「そうか、良かった……」 ホッとしたようにアルロード様が微笑んでくれたから、オレも心底安心する。 やっぱりアルロード様にはいつだって笑っていて欲しい。改めてそう思った。 ******** 「オレがヒートになったら、ドルフがなんとかしてくれますんで。アルロード様は心配しないで」 「……!!!」 胸が締め付けられるような気持ちで目が覚める。 ……はあ、と息をついて身を起こした。 もう何度こうして目を覚ましただろう。一晩で何度同じ夢を見て目を覚ませば気が済むのか。 どうやら僕は、今日ルキノに言われたあの言葉が相当悲しかったらしい。 オメガという性差がもとでずいぶんと悩んでいる様子だったというのに、なんとかひねり出した案はことごとく却下されてしまった。 妙案だと思った結婚に至っては「アルロード様だけは絶対にダメ」と強硬に断られる始末だ。 情けなくて悲しかった。 しかも、今後はドルフと一緒じゃないと会わないとまで言われてしまった。 拒絶されたような気もしたし、僕よりもドルフが頼りになるんだとはっきり言われた気持ちになった。 本当ならそれは当たり前だ。彼は僕よりもずっと前からルキノと友人なんだから、より信頼されているのは間違いない。しかもベータだからヒートの影響も受けない。 ルキノの言う事はすべて正論だったのに、それでも僕はショックを受けていた。 僕がルキノのためにやってあげられることは本当にないのか。 ルキノはああ言ったけれど、本当に上位貴族の第二夫人になって護衛として扱われる事が彼の幸せなのだろうか。 彼の幸せは彼にしか分からない。 少なくとも嘘を言っているようには感じなかった。 けれど、それが彼の大切な『あのお方』と今後も会えるかも知れないからだなんて、そんな偶然の幸運を心のよりどころにするのはあまりにも悲しいじゃないか。 彼の希望になりうるのが、そんな確実性のないものであるのが悔しい。 大切にすると誓う僕と結婚するよりも、そんなあるかないかすら分からない幸運を唯一の希望としてどこの誰とも分からない人と結婚する方がいいというのか。 ぐす、と鼻の奥が鳴った。 嫌われてはいないと思う。 ルキノは僕のことが大好きだからこそ、結婚できないと言った。 僕に申し訳ないと思いながら長い人生を生きるのは嫌だ、僕には愛し合う美しいオメガ女性と、最高に幸せな人生を送って欲しい、ちゃんと愛する誰かを探して欲しい。 真剣な目でそんな事を言われてしまうと反論する事もできない。 僕がルキノの幸せを願っているように、ルキノだって僕の幸せを願ってくれた結果なのだろうと思うと、嬉しい気持ちもあった。 ルキノはオメガである事に向き合って、御父君と話し合うと言っていた。

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