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第33話 【アルロード視点】告白

「アルロード様、体調が悪いんなら今日は無理しなくても」 僕の体調が悪いと思ったらしいルキノは、木陰へと導きながら心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。 僕を気遣う優しいエメラルドグリーンの瞳を見ると、胸がきゅう、となる。 愛しい。可愛い。 やっぱり僕は、ルキノに心を奪われているらしい。 「……違うんだ、これはその、緊張しているからで」 「緊張?」 「ルキノ、怒らないで聞いて欲しいんだけれど」 「オレがアルロード様に怒るなんてありえません」 まっすぐに見上げてくるルキノの真剣な表情に、一瞬息が止まりそうになった。 この気持ちを言ってしまったら、もうこの距離感で話せることなどなくなってしまうかもしれない。そんな恐怖がせりあがってくる。 けれど言わなければ殿下の側妃という、手の届かない存在になってしまうのだから、僕には選択肢なんて存在しないも同然だ。 「ルキノ」 名を呼んで、ルキノの両肩に手を置く。 「うわわわわ、あ、アルロード様!?」 ルキノが分かりやすくうろたえた。 その赤い顔が、手から伝わる鼓動の速さが、僕と同じ恋情であったらどんなにいいか。 「ルキノ、好きなんだ」 「へ!!???」 「縁談なんて断って、どうか僕と結婚して欲しい」 「え、いや、ちょっと待って」 思いもかけない言葉だったのだろう。ルキノが混乱から回復するのを辛抱強く待つ。 表情が目まぐるしく変わるのをこんな至近距離で見る事ができるのだって、最後かもしれないのだから、一瞬一瞬を大切にしたかった。 色んな考えがその頭を巡ったのだろう、やがてルキノがハッとしたような顔をしてまた僕を見上げた。 「アルロード様、あの、本当にオレ、大丈夫ですから。心配しないでいい……」 「そういうことじゃないんだ」 ルキノなら、きっとそう言うと思っていた。 「昨日、ルキノから縁談が決まりそうだと聞いた時、僕はものすごく悲しかった」 「え……」 「実を言うとゆうべひと晩中泣いて眠れなかった」 「泣いた!? え、アルロード様が? え、待って。ひと晩中って」 「うん、ひと晩中。こんなに感情が爆発したのは初めてで、自分でも何が起こってるのか分からなかったけれど……とにかく、ルキノが僕じゃないだれかと結婚して、会えなくなるのはどうしても無理だと思ったんだ。……言ってる意味、分かる?」 「え、えと」 またもや混乱してきたらしく、ルキノの視線がさまよって、真っ赤になったまま僕の視線から逃げようとする。 「ルキノ、僕の目を見て」 逃がすものかと思った。 最初は体調が悪いのかな? と思った。 けれどアルロード様は緊張しているだけだという。大丈夫かなぁと心配していたら、急に意を決したような顔でアルロード様に詰め寄られた。 「ルキノ」 「うわわわわ、あ、アルロード様!?」 もう、うろたえるしかない。だってアルロード様が僕の両肩に手を置いて、ぐっと距離を詰めてきたんだから。 なに、この距離感。 しかもアルロード様のお顔の破壊力ヤバすぎない? 目が潤んで、若干頬が赤くて、切羽詰まったようなこのご尊顔、ときめかない方が無理なんですけど!!??? しかもその形のいい唇が、理解不能な言葉を紡ぎ始める。 「ルキノ、好きなんだ」 「へ!!???」 「縁談なんて断って、どうか僕と結婚して欲しい」 「え、いや、ちょっと待って」 マジで待って。 なんかとんでもない空耳が聞こえたような。 今アルロード様、好きだって……結婚して欲しいって言わなかった? いや、待て待て待て。 いくら乙女垂涎のシチュエーションだからってこの妄想はヤバいでしょ。 妄想じゃなかったら、そこまで考えてハッとした。 そうだ、アルロード様は前々からオレが貴族の第二夫人として嫁ぐと言うと、とても心配してくれていた。愛されないんじゃないかって懸念を持ってくれていたようだけれど、そこは別に本当に心配しなくてもいいんだけど。 「アルロード様、あの、本当にオレ、大丈夫ですから。心配しなくていい……」 「そういうことじゃないんだ」 食い気味にさえぎられた。 「昨日、ルキノから縁談が決まりそうだと聞いた時、僕はものすごく悲しかった」 「え……」 「実を言うとゆうべひと晩中泣いて眠れなかった」 「泣いた!? え、アルロード様が? え、待って。ひと晩中って」 アルロード様はいつも穏やかに微笑んでいて、激しく怒ったり悲しんだり、逆に有頂天になったりすることもない、泰然自若としたふるまいのお方。 お傍で話すようになってからは思っていたよりも感情の起伏を感じてはいたけれど、まさかあのアルロード様がひと晩中涙することがあるだなんて。 しかも、オレの縁談が決まったから? 意味が分からない。 混乱するオレに、アルロード様は容赦なく畳みかけてくる。 「うん、ひと晩中。こんなに感情が爆発したのは初めてで、自分でも何が起こってるのか分からなかったけれど……とにかく、ルキノが僕じゃないだれかと結婚して、会えなくなるのはどうしても無理だと思ったんだ。……言ってる意味、分かる?」 「え、えと」 言葉は分かる。でもその意味が分からない。

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