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第34話 アルロード様のお声の魔力スゴイ
オレがアルロード様以外の誰かと結婚するのが悲しい、だなんて。
言葉通りに聞いてしまうと、とんでもない答えに行きついてしまいそうで、オレはアルロード様から目を逸らし、考えるのをやめにした。
ところがどっこい、アルロード様はうやむやにする気は一切なかったらしい。
「ルキノ、僕の目を見て」
う……。
「ルキノ?」
アルロード様のお声の魔力スゴイ。
「ルキノ、お願いだからこっちを向いて」
三度も請われてしまえば、もはやオレごときにアルロード様のお言葉を無視することなど出来よう筈もない。
おずおずと視線をあげてアルロード様を見上げたら、バチっと目が合う。
吸い込まれそうな青い瞳。
やっぱり最高にイケメン。このご尊顔をこんな間近で見る事ができるとは。ありがとうございます……!
しかもにっこりと笑ってくれて、その笑顔を見るだけで幸せな気持ちが沸き上がってくるんだから困る。
「聞いてた? ルキノ、好きだ。僕と結婚して欲しい」
改めてまっすぐな告白の言葉を貰って、その破壊力に足がふらつく。
「おっと」
よろめくオレを、アルロード様が腰を抱いてしっかり支えてくれた。
「む、無理……!」
より近づいた距離に、脳みそが沸騰しそう。
「どうして? ルキノは『あのお方』と結婚したいわけじゃないよね? 結婚相手にこだわりはないと思ったけれど」
「でも、でも、アルロード様は無理……!」
「どうして? ルキノは以前、僕の事を大好きだと言ってくれただろう? あれは嘘だったのかな」
「嘘だなんて!!! 大好きに決まってます! でもアルロード様はオレの推しなんで!!! アルロード様には愛する人と幸せになって欲しくて!!!」
顔を近づけないで!!! 噴死しそうだから……!!!
「そうか、じゃあ問題ないね。僕の愛する人はルキノだ。僕も愛する人と幸せになりたい」
ぎゅう、と抱きしめられて、オレの脳みそは許容量を超えてしまったらしい。プツ、と小さな音がして、気を失ってしまったらしかった。
***
目を覚ましたら、とても美しい夕焼けが広がっていた。
「……?」
「ごめんね」
小さな謝罪の声の方に視線を向けると、アルロード様がオレを心配そうに見下ろしている。
あれ? オレ、何してたっけ? なんでアルロード様が謝るんだ? と思ったところで、急に思い出した。
「~~~~~っ!!!!」
ボッ! と体中が熱くなるのが自分で分かる。多分顔だって真っ赤だと思う。
「思い出した? ごめんね、強引だったね。でもルキノが結婚してしまうかも、と思ったら焦ってしまった」
「あ、焦るって」
「ルキノに縁談の話を持って行ったのはね、実はイオスタ殿下なんだ」
「へ?」
「側妃にお望みだと。イオスタ殿下は魅力的なお方だし、側妃として一番お傍に侍って殿下の身を守れるというのならば、ルキノは喜んで嫁いでしまうだろう?」
「それは……そうかも」
「さっきより全然驚かないね。……ルキノは側妃になりたいの?」
そりゃ、なんで? なんの話? って思っちゃいるけど、アルロード様に好きとか結婚しようって言われるのに比べたら心臓のバクバク具合が違うっていうか。
「いやなんかもう、異次元の話っていうか、現実味がなくて」
側妃なんてなりたいと思ったことはもちろんないし、何する人かすら分からない。なりたいもなりたくないもないっていうか。
「そうか、是非ともというわけではないんだね。では改めて、僕との結婚を考えてみてはくれないだろうか」
「……っ」
思いがけない側妃うんぬんの話がでてようやく落ち着いた頬が、一気にまた熱を持つ。
「そんなに可愛い顔をされると期待してしまうんだけど」
「仕方ないじゃないですか……! お願いだからちょっとだけ黙っててもらってもいいですか? なんとか落ち着くんで」
アルロード様がオレを殺しに来てる。ずっとずっと推してきたアルロード様にそんな甘い言葉言われたら、心臓が体を突き破って星空まで大ジャンプしそう。
「あの……聞き間違いじゃなかったら、さっき『アルロード様はオレの推し』って言ってたよね? もしかしてルキノの『あのお方』って」
「~~~~~っ!!!!」
ボフッと音がするくらい、自分でも赤くなったのが分かった。
「僕なのか……!!!」
バレた! 完全にバレた!!!
しかもこのタイミングで!!!!!
「そうか! そうか……良かった……!!!!」
寝っ転がったままのオレに、アルロード様が覆いかぶさってくる。そしてそのまま、ぎゅうぎゅうに抱きしめられた。
「君があんなにも思いを寄せていた『あのお方』が、まさか僕だなんて……!」
「でも! でも、オレのは『推しへの愛』で恋愛とはちょっと違うって言うか」
「分かっている。けれど、ルキノは『あのお方』が愛する人と結婚して、幸せになって欲しいんだよね?」
「そうなんですけど、お願いアルロード様、離して……」
「しかも僕と結婚すれば、偶然なんか頼らなくても朝起きた瞬間から夜寝る瞬間まで『あのお方』を見放題」
「そうなんですけど~……」
アルロード様に抱きしめられるだなんてとんでもない幸運に、もう鼻血が出そうな僕は、もういっぱいいっぱい過ぎて頭がまわらない。
しかも、朝起きた瞬間から夜寝る瞬間までアルロード様を見放題だなんて、なんて魅力的な……!
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