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第35話 僕を選んでくれたなら

オレがぐらっと来たのが分かったのか、アルロード様が身を起こしてオレの顔を覗き込んでくる。 なんでそんなに目がキラキラしてるんだよ……! 麗しすぎて目がつぶれそう。 「しかもルキノが僕を選んでくれたなら、僕は最高に幸せになれる」 「幸せ……?」 「そう。ルキノ、僕は君が殿下に嫁いでしまったらと思うと、悲しくて夜も眠れないんだ。逆に、君の言葉ひとつで天にも昇る気持ちになれる」 オレの、言葉ひとつで。 「お願いだよルキノ。僕と結婚するって言って。どうか、僕を幸せにしてくれないか?」 大好きで大好きで大好きな人に、そんなこと言われたらもう無理だった。 「ううう……オレが……オレが!!! アルロード様を幸せにします……!!!」 「ルキノ!!!」 オレはこの日、アルロード様と結婚する決意を固めたのだった。 *** それからのアルロード様の行動は信じられないくらい早かった。 翌日の午後には父さんと母さんにアポイントが入ったかと思うと、アルロード様のご両親だけでなく先代の騎士団長オーソロル卿まで伴って現れたものだから、オレはもちろん両親だって弟だって使用人のみんなだって飛び上がって驚いた。 オレたち男爵家に、公爵家のご家族やオーソロル卿がそろい踏みで現れるだなんて、一生のうちにあるかどうかっていう天変地異レベルの案件だ。 なんでこんな大所帯で……と思ったら、どうやらオーソロル卿は見届け人のような立場だったらしい。 「オーソロル卿、王家に連なるお方との縁談、と仰っておりましたが、まさかヴァッサレア公爵家のご子息とは……しかし、アルロード様は妻帯どころかまだ学生では」 驚く父さんに、オーソロル卿は苦笑して見せた。 「うん、まぁ、そこはこれから事情をゆっくり話すとして」 基本的には家同士の話し合いになるものだから、オレとアルロード様は最初の顔合わせが済んだらさっさと応接室の外に出されてしまった。 あまりの急展開で思考が追い付かない。 しかもぶっちゃけるとまさかこんな急展開になるなんて思ってもいなくて、家族にどう話したものかと悩んだ挙句、まだ何も言えてない。なのにこんな事になるだなんて。 父さん、母さん、本当にごめんなさい。 昨日からびっくりし通しの焦りっぱなしでもはや思考停止状態に陥ったオレは、どうしたらいいか分からないまま隣に立つアルロード様を見上げる。 そこには、とろけるような笑顔のアルロード様がいた。 「……っ」 破壊力……っ。 なんたる麗しさ。こっちの目までとけそう。 「ごめんね、昨日ルキノの了承を得たばかりなのに、急に大勢で正式な婚約の願いに来たものだから驚いただろう?」 「はい……実はまだ、家族に話せていなかったので、家族はもっと驚いていると思います」 「そうだよね、ごめんね。けれど1日でも無駄にできない状況だったものだから」 確かに殿下とのご縁が整ってしまったら、公爵家でも覆す事はできないだろう。オレたち男爵家ならもっと無理だ。 「昨夜のうちに僕の両親には了承を得て、今朝一番に家族総出で殿下に奏上しに伺ったんだけれど」 そこまで言ってアルロード様はふ、と微笑む。 「殿下に笑われてしまった」 「?」 「殿下は僕がルキノに恋をしている事なんてとっくにご存知で……いや、気づいていなかったのは当の本人である僕くらいで、家族もずいぶんとやきもきしていたらしくてね」 「えっ」 「気付くまで待とうと思っていたけれど、ルキノとの縁談に興味を示した方がいたらしくて、先手を打つと共に僕に発破をかける意味合いで殿下が動いてくれたそうで」 「ひえっ……」 「まったく世話が焼けることだ、とちょっぴり叱られてしまった」 そう言って眉毛を下げるアルロード様は可愛いけれど……ちょっと待って、オレとアルロード様の動向ってそんなロイヤルなお方たちにずっと見守られてたってこと!? 「多分今頃、ルキノのご家族にも説明があっていると思うけれど、今日正式に婚約を結んで、僕らのアカデミー卒業と共に婚姻したいと思うんだ」 「早……っ」 あと三ヶ月ちょっとしかないんだけど!? 「うん、ごめんね? ルキノのことが好きだと自覚したら、待てなくなってしまった。早くルキノと一緒に暮らしたいんだ」 そう言って微笑んでくれるアルロード様のあまりの綺羅綺羅しいお姿に、ちょっとくらっとしたら秒で支えられてしまった。麗しい上に頼もしいとかなんなのオレの推し様。 「大丈夫?」 「すみません、アルロード様がかっこよすぎて」 もうオレの推しはアルロード様だとバレたことだし、と思って素直に思ったままを口にしたら、アルロード様の頬がぽうっと赤く染まる。 「うわ……」 照れ顔も可愛いんですけど……! 「面と向かってルキノにそう言われると、どういう顔をしていたらいいのか分からないな」 困ったように笑う顔がまた可愛くて身悶えてたら、肩をちょんちょんとつつかれた。 「?」 「いたたまれないから、場所を移さないか?」 「え? あ」 よく見たら、エントランスには公爵家の護衛が二人ほど立っている。 うわ、こっちにも護衛がいたんだ……。

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