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第36話 お、オレの部屋!?

確かに二人して赤くなっているところを見られるのは超絶恥ずかしい。 「一緒に庭でも散歩します? 公爵邸の庭に比べたら多分貧相ですけど」 「それも楽しそうだけれど、できればルキノの部屋に招いてもらえると嬉しいな」 「お、オレの部屋!?」 「ダメかな」 心底困った。 一瞬、アルロード様がオレの部屋に!? っていう夢のようなシチュエーションにちょっと浮かれそうになったけど、すぐにヤバいって気づいたからだ。 だって、アルロード様がちょっと肩をポンってしてくれた時の残り香で、発情期の時はあんなにもくらくらする匂いだったんだよ? アルロード様がオレの部屋にきて、いろんなものに触ったりしたら……! 「ごめん、困らせるつもりじゃなかったんだ。ダメなら無理にとは」 「大丈夫です!!! なんもない部屋ですけど!!!」 無理だ! 寂しそうなアルロード様の顔を見てたら、とてもじゃないけど断れない! 「本当に? 嬉しいな。ルキノがどんな部屋で毎日暮らしているのか実は気になっていたんだ」 途端に晴れやかな笑顔になるアルロード様。 アルロード様にとことん弱いオレは、うきうきした様子に後押しされるように自室へとご案内したのだった。 「おお……! ここで毎日ルキノは勉強したり眠ったりしているんだね。感動だ」 部屋に入るなり歓声をあげるアルロード様。 分かります。それ、先日アルロード様のお部屋に伺った時オレも思いました。 「剣もある」 「軽い素振りなら部屋でやる事も多いんで」 だから、部屋の中はなかなかに殺風景だ。ベッドと机と作り付けのクローゼットくらいしかない。多分騎士の宿舎に入ってもそんなに違和感は抱かなかっただろう。 「そうか、ルキノは本当に剣が好きなんだな」 感慨深そうに呟くアルロード様。 うん、オレ、本当に剣が好きだった。本気で騎士になりたかったんだ。 もう叶わない願いだって知ってるけどさ。 ちょっとだけ感傷的になっていたら、急にアルロード様がフラッとよろめくように歩き出した。 「……ここで……ルキノが……」 そう広くもないオレの部屋で、大股で数歩動けば目的地なんて丸わかりだ。 「うわ、ちょ、待ってアルロード様!」 ベッドに近づかれるのはなんか恥ずかしい! なんせ前回の発情期いらい、たまにだけど……本当にたまにだけど! アルロード様を思いながらひとりエッチしたこともあるわけで、そんなベッドに近づかれるのはなんか嫌だ。 慌てて止めようとしたときにはアルロード様はオレのベッドにふらりと身をゆだねていた。 あわわわわ……あ、アルロード様がオレのベッドに……! じゃない! どう考えてもアルロード様らしからぬ行動だ。しかもなんかフラフラしてたし! 「あ、アルロード様? もしかして体調が……?」 「ああ……ごめん……あまりにも魅惑的な香りで、つい……」 「へ?」 オレの枕をぎゅうっと抱きしめて、顔を埋めていたアルロード様がチラ、と目線だけでオレを見る。 その目は潤んでいて、ちょっと目の淵までふわっと赤くなっている。つまりとんでもなく色っぽい。 「……はっ! アルロード様、ヤバいです!!!」 「え?」 「起きてください、あんまり匂い嗅いじゃダメです。今は別にオレ、発情期じゃないけど……あ、でもそろそろだからかな? アルロード様なんかヤバそうで」 「あ……確かに、離れがたい」 オレの枕をうっとりした表情で抱きしめるアルロード様はオメガかと疑いたくなるような艶っぽさだ。 正直めっちゃエロい。 目の毒。 心なしか匂いまで強くなってきた気がする。 「起きて! もうこの部屋出ましょう!」 一生懸命にアルロード様を部屋の外に連れ出して、ホッと息をつく。そこへちょうど婚約が正式に整ったという知らせが来て、アルロード様はとてもとても名残惜しそうな顔をしたまま帰って行った。 公爵家の皆さまおよびオーソロル卿が帰ったあとは、オレも家族も数少ない使用人の皆も、緊張から解き放たれて魂が抜けたぬけがらみたいになっていた。 「……とんでもなく疲れたな」 父さんがつぶやくと、母さんも「本当に」と相槌を打つ。 「ごめん、実は昨日アルロード様からお話をいただいたんだけど、どう言ったらいいのか迷ってるうちにまさかの急展開で」 「ああ、ルキノの了承は得ているという話だったが本当だったんだな」 「ルキノ、あなたは以前からアルロード様のことをすごいすごいと褒めていたから大丈夫だとは思うのだけれど……本当にアルロード様の事が好きなの? 身分が高いお方だから、断れないわけではない?」 母さんが心配そうにそう聞いてくれる。 「大丈夫。最初は畏れ多くてお断りしようと思ったんだ。でも、その……アルロード様がオレのこと好きって言ってくれて、オレも決心がついた。オレ、ずっとずっと前からアルロード様のこと尊敬してたし、恋愛的な意味じゃなかったけどすっごく好きだったからさ」 「そう、良かったわ。知らない方に嫁ぐよりも人となりを知っていて尊敬できる方に嫁ぐ事が何倍もいいものね」 ホッとしたように息をつく母さん。心配かけてごめん。

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