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第38話 アルロード様の幻が実体持ってる風に見えるぅ

キィ、と小さな音がして扉が開く。 「ルキノ様、大丈夫ですか?」 「うん……ありがと」 いつもホテルまで送ってくれる御者のマルクは、オレからいつもいい含められてるから不用意に触ったりしない。ちょっとの刺激で反応してしまうから、この距離感がありがたかった。 できるだけ自分の身体に刺激を与えたくなくてのろのろと馬車から出て……オレは息を呑んだ。 「どこ? ここ……」 目の前にはすごくデカイお屋敷。 周囲には森と湖しかなくて、いつものホテルの周辺とは似ても似つかない。 もう足を進める気力もなくて馬車から降りたところでペタリと座り込んだ時、デカい邸の扉がすごい勢いで開いた。 「ルキノ!」 「え……」 居るはずのない人の声が聞こえて、走ってくる人のシルエットが見慣れた『あのお方』の姿に見えて、オレは妄想まで見るようになってしまったのかと呆然とする。 「可哀そうに、大丈夫?」 走り寄ってきたのはやっぱりアルロード様で、返事をする間もなく姫抱きで抱きあげられて邸の中に運ばれた。 運ばれる振動に、触れる身体の体温に、何よりも、包み込まれるみたいなアルロード様の香りの濃厚さに、頑張って抑え込んでいた熱が一気に昂ってくる。 「な……ん、で、アルロード様……」 「ルキノがヒートを起こしていると聞いていても立ってもいられなくて。ごめんね、僕がルキノの部屋に入ったせいで発情期が早まったんじゃないかと思うと心配で」 「そんな……あ、」 そっとベッドに降ろされたのに、そのわずかな衝撃にさえも体が反応してしまう。 「辛い?」 心配そうにのぞき込まれると、その美しい青い瞳がまたオレの身体に火をつける。どんどん高まってくる体の中の熱が怖くて、オレはアルロード様の視線から逃れるように枕に顔を埋めて、身を包むシーツをきゅ、と握りしめた。 「どうしよう~アルロード様の幻が実体持ってる風に見えるぅ……うう、ごめんなさい、アルロード様」 これだけ濃厚なアルロード様の香りに包まれてたら幻の存在感が強くなっちゃうのも仕方がないけど。 声も表情もなんだかすごく色っぽく見えて、今日もまたアルロード様をおかずにするの決定だ。申し訳ない気もする。でももう結婚することになるんだからいいのかな。 「アルロード様……っ」 我慢できなくなってきて、枕をぎゅっと握りしめながら自分の中心にもう片方の手を伸ばした。 「枕を抱きしめるくらいなら本人に抱き着いて欲しいんだけど」 アルロード様の幻が、そんな甘いセリフを囁きながらオレの頬や瞼、おでこに唇を落とす。 柔らかい唇が何度もチュ、チュ、と可愛い音を立てるのも、オレを見下ろすアルロード様の目が優しいのもなんかもう幸せで、この幻影に身を預けてしまえばいいんだと思えてくる。 「キスしてもいいかな」 すでにいっぱいされたけど、と思いながら頷いたらすかさず唇を奪われた。 結婚したら、アルロード様とこんな風にキスするのかな。 最初は遠慮がちに、でも徐々に唇を食んだりチュウと吸われたりしているうちに息が上がってくる。空気をうまく吸えなくて、空気を求めて口を開けたらアルロード様の舌がヌル、と口内に入り込んできた。 あっ、待って。 ふる、と身体が震えた。 熱くて、ぬるぬるしてて、意思をもって動き回るものが口の中に勝手に入ってくるだなんて経験がなくて、ただただ翻弄されてしまう。 逃げようとしてもぬりゅぬりゅと舌を絡められ、やっと解放されたかと思ったら口内をそっと舌先で舐められる。 すごい。気持ちいい。 キスすら初めてなのに、こんな濃厚なキスをもらえるなんて。とても幻とは思えない。 まさか本当に、アルロード様……? どんどん高まる快感の中で今度はぢゅう、と強く舌を吸い上げられて、身体が勝手にわなないた。アルロード様の身体に思わず縋り付いてしまったら、力強く抱き返される。 一見細身に見えるのに鍛え上げられたアルロード様の身体は、思ったよりもずっとたくましくて、筋肉がぎゅっと詰まってる感じだ。あの素晴らしい剣技が繰り出されるのも分かる。 「ルキノ……っ」 ぶわ、とアルロード様の香りが濃くなって、まるで強いお酒を一気に体に流し込まれたみたい。 「すごい……アルロード様の香りが……」 「ルキノもすごい香りだよ。ああ、こんなにぐしょぐしょになって……辛い?」 オレはふるふると首を横に振った。 「アルロード様がいるから、幸せ……っ」 ぎゅう、と抱き着いたら、アルロード様も抱き返してくれる。 「ルキノ……! そんなことを言われたら、我慢できなくなってしまうよ」 身体の中心が切なくて切なくて、思わずアルロード様に縋り付いて昂った中心を擦り付けてしまう。もう目の前のアルロード様が幻か本物かなんてもうどうでもよかった。 だって、キスしてオレの身体をそっと撫でてくれてるのがすごく気持ちいい。 ゆっくり服を脱がせてくれる手はすごく丁寧で、オレを見つめる目はどこまでも優しい。もう身も心も投げ出して、アルロード様に委ねてしまいたい。 「僕も初めてだから上手に出来ないかも知れないけれど、できる限り丁寧にするからね」

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