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第40話 幸福な気持ち
ぎゅうっと強く抱きしめられて、こんなに喜んでくれるのならばチョーカーを外した甲斐があると思った。なのに、アルロード様はすぐに不安そうな色を瞳に浮かべて、オレを一心に見つめてくる。
「……? アルロード様?」
「緊張する……こんなに緊張するの、生まれて初めてかも。いっぱいほぐしたつもりだけど、もし痛かったらちゃんと言って」
どこまでも優しいアルロード様に、身も心も委ねきっていたら、アルロード様はオレの片足をぐっと折り畳むように持ち上げた。
腰がちょっと浮き上がって、後孔に熱い怒張がぴったりとあてられる。
「ルキノ……愛してる」
真っ直ぐに見つめてくるアルロード様の青い瞳から目が離せない。見つめ合ったまま、アルロード様の体重がかかった後孔にグ、と質量のある熱いモノが侵入してきた。
「あ……あ……あ……」
入って、くる。
この感動をどう表現したらいいのか。
苦しい。けど、それ以上に幸せで。
アルロード様の必死な顔が愛しくて愛しくて。
初めて身体を重ねた発情期は、これまで感じた苦しさなんかみじんもなくて、どこまでも幸せな時間だった。
***
それからはっきりと思考が戻ったのは五日ほど経過したあとで、どうやらオレは、初めて番と過ごした発情期に思いっきりどっぷりと嵌まってしまっていたようだった。
うっすらと思考が戻った時にはまだアルロード様に抱かれている最中で、奥の奥まで愛されて、過ぎた快楽になかなか言葉を発する事もできなくて。
けれど、オレの表情を丁寧に見てくれていたらしいアルロード様は、オレを見つめて花が綻ぶように微笑んだ。
「ルキノ、ヒートが収まってきたのかな?」
「アル……ロード、様……」
声がガラガラでうまく声が出ない。それに、とにかく気持ちいい。
でも、アルロード様が汗だくでオレを抱いているという事実が徐々に理解できてきて、一気に恥ずかしくなってしまった。
「ああ、蕩けた表情も可愛いけれど、ヒートじゃない、恥じらうルキノも愛らしい」
嬉しそうに笑ったアルロード様は怒張をさらに硬くして、オレの最奥に吐精した。
しばらくそのまま堅くオレを抱きしめて熱心に唇を貪っていたアルロード様は、ようやく唇を解放すると困ったように微笑む。
「離れがたいな」
オレも。
恥ずかしいけど、アルロード様の肌の温かさが嬉しくて、いつまでもこうしていたいと思ってしまう。
けれど、優しく身体を起こしてくれて水を呑ませてくれて、愛しそうにオレのうなじに傷薬を塗り込んでくれるアルロード様の姿に、じんわりと幸せな気持ちが湧き上がってくる。
アルロード様、本当にオレのことを好きでいてくれたんだ……身体を繋げて、大切にされて、うなじに番の証を貰って、やっと心からそう思えた。
発情期が終わって思考能力を取り戻したオレに、アルロード様はここが公爵家の別荘であることを教えてくれて、その日はゆっくりとふたりの時間を楽しむことができた。
最初は発情期が終わったんだからそのまま登校すべきなんじゃないかと思ったんだけど、なんせずっとエッチし通しだったわけでうまく体が動かない。
しかも、アルロード様から気持ちを伝えてもらって翌日には婚約、その夜には発情期になってしまって、恋人としてお互いへの理解を深め合う時間を持つことすらできなかったわけで……アルロード様に寂しそうな顔をされてしまえば、それを押してまで体調不良のまま登校することもないかと思った。
食事や水分をアルロード様が手ずから運んでくれてちょっと申し訳なかったけれど、それも嬉しそうだったからありがたく世話を焼いてもらいながら一日を過ごし、オレはますますアルロード様が好きになった。
小柄ではあるけれど筋肉がしっかりついてるからそれなりに重いであろうオレを、軽々と姫抱きで運ぶところも格好いいし、俺との会話の中でちょっと照れたりドルフの話題でやきもちやいたりする貴重な表情は可愛いし。
お互いの子供の頃の話や家族の話なんかまで話題は尽きなくて、たくさん話してちょっと落ち着いたときだった。
「そうだ、ルキノに渡したいものがあったんだ」
そう言ってアルロード様が小さな箱を持って来て渡してくれた。なんか見るからに高級そうな箱で、ちょっと開けるのに躊躇してしまう。
「開けてみてくれる?」
促されて開けてみたら、シンプルでかっこいいチョーカーだった。
「かっこいい……」
「良かった、気に入ってくれた? ルキノがこれまで使っていたものに似せて、それにちょっとだけ僕の色を足して作ったものなんだ」
確かに、あんまり目立ちたくなかったオレはこれまで目立たないシンプルなチョーカーを使っていた。
アルロード様はきっと、オレのそんな気持ちを感じ取って、これまでに近いものを用意してくれたんだろう。
オレの肌の色に近い皮のチョーカー。
けれど、その喉の部分にはヴァッサレア公爵家の紋章が型押しされてるし、その下にはアルロード様の瞳の色をした小さな石が揺れている。
「ほんとだ。オレ好みのチョーカーなのに、しっかりアルロード様がくれたんだって主張されてる」
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