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第41話 良かったじゃねーか
「うん。ルキノは僕の番だって、誰から見てもしっかり分かるようにしないといけないからね」
からかったつもりだったのに真顔で返されて、こっちが照れてしまう。
「実は婚約の申し込みに行ったあと、すぐにこのチョーカーの制作を依頼して、昨日できあがってきたばかりなんだよ。ルキノにつけてあげるのを楽しみにしていたんだ。僕がつけてもいいかな?」
わくわくした顔でそんな事を言われたら、断れるわけがない。
「どうぞ」
そう言って後ろを向いたら、アルロード様がほう……とため息をつく。
そっと触れられたうなじに、ぞく、とするような快感とピリ、とひきつるような痛みを同時に感じて、オレはわずかに身震いした。
「ごめんね、痛いよね」
「ちょっとだけ」
「本当にごめん……この傷跡を見ると複雑な気持ちになるよ」
「? どういう意味ですか?」
「ルキノのうなじを噛んだ時の僕は、理性が飛んでしまっていて、かなり強く噛んでしまったんだ。だから、この傷を見るたびに痛そうで申し訳なくて……けれど、それがルキノが僕の番だという確かな証だと思うと、今まで覚えたことのない満ち足りた気持ちにもなってしまうんだ」
「アルロード様……」
「これって独占欲なんだろうか」
ちょっぴり眉毛を下げるアルロード様。
「ルキノに出会ってから僕は、今まで知らなかった感情に翻弄されてばかりだよ。自分の中にこんな感情があったなんて知らなかった」
複雑な表情のアルロード様に、オレもちょっと複雑な顔で笑い返す。
「やっぱり本能なんですかね。オレも、前はうなじを噛まれるなんて怖い、絶対嫌だって思ってたのに、これがアルロード様がつけてくれた番の証だと思うと嬉しいんですよね」
「ルキノ……!」
「なんか不思議ですね。オレ、オメガとして幸せになれるなんて思ってなかったのに、今すごい幸せで、なんか自分でもびっくりします」
「そうか……! 良かった……!!!」
なんでだか急にアルロード様が泣きそうな、でも嬉しくてたまらないみたいな顔をする。
「ルキノは断れなくて不本意なまま僕と結婚したのかもしれないと、本当はずっと不安だったんだ」
「そんなこと!!! オレ、本当に幸せです!」
「ルキノ……!!!」
ハラハラと流れる涙が、アルロード様のご尊顔をキラキラと彩っている。
不安そうな顔も、嬉しさに溢れた顔も、今のうれし泣きの顔も。
たった一日でいろんなアルロード様の新しい魅力が見えてしまって、これから夫婦として一緒に暮らすことになったら、自分の心臓が持つだろうかと不安になったくらいだ。
こんなに幸せな気持ちを貰ってるんだから、これからはオレも、アルロード様に同じくらい幸せな気持ちを渡せるように頑張ろう。
アルロード様としっかり抱き合いながら、オレはそんなことを誓ったのだった。
***
濃密な発情期のあとの幸せな一日を経て登校したオレは、早速ドルフから肩をどつかれた。
「よう、良かったじゃねーか」
「ドルフ」
ドルフがいつもみたいにニヤッと笑う。
「アルロード様と結婚できることになったんだろ? 俺もこれで安心だわ」
「知ってたんだ……」
「そりゃまぁ、お前たちが婚約した日、アルロード様から報告があったからな。あの人、天に舞い上がっちゃうんじゃないかくらい喜んでたぜ」
「ええっ!?」
ていうか、いつの間にそんなに仲良くなってたの!?
「そのあとすぐに二人して休むもんだから面食らったけどな。ま、お前もアルロード様も幸せになれそうで良かった良かった」
「ドルフ……」
いつもぶっきらぼうで、適当に相槌うってたりからかってきたりするけど、オレが本当にへこんでるときは黙って傍にいてくれるのがドルフだった。
オレがオメガだって分かってからは、なんでもない風にふるまってくれてたけど、心配してよりそってくれてるの、分かってた。
そのドルフが、本当に安心した顔で笑ってくれるのが嬉しくて。
ドルフはすぐにこの一週間で起こった変わったことや面白いことを次々と教えてくれて、オレは目を丸くしたり腹が苦しくなるまで笑ったり、すっかりいつもの日常に引き戻されていく。
ああ、そうだった。ドルフってこんなヤツだった。
オレが気まずくならないように、バカなことを言いながら普通に接してくれる、そんなドルフだから、アルロード様もいつの間にかすごく仲良くなってるんだろう。
本当にドルフはいいヤツだ。
「まぁ、ルキノ様」
じんわりあったかい気持ちになっていたら、また後ろから声をかけられた。
「アンリエッタ様、ユーリア様」
「おめでとう! あのお方のお心を射止めるだなんて、素晴らしいわ」
アンリエッタ様が、オレの手を取って祝福してくれる。
まさか、こんな風に手放しで祝福して貰えるだなんて思ってなくて、オレは言葉を失った。
「以前は悩ましいお顔をされることも多かったあのお方が、今日は輝くような笑顔で……あまりの眩しさに足元がふらつく方も多数出てしまう始末でしてよ」
そんなに!?
「でしょうね。コイツとの婚約が決まったって、めちゃくちゃ嬉しそうでしたもん。そりゃ笑顔も天元突破するんじゃないすか?」
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