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第42話 お嬢様方の励まし
「まぁ、やはりそうなのですね! お父様からも、あのお方がとにかく強く望んでこのご縁を纏められたのだと聞いておりましたの。あの幸せそうなお顔を見れば、その情報の正しさを実感するばかりですわね」
「間違いないっすね。さすが宰相様」
興奮気味のアンリエッタ様に、普通にうんうんと頷き返すドルフ。
本当に平民とは思えないふるまいで、ドルフの肝の太さにはいつも驚くばかりだ。
「ルキノ様。あのお方の輝くような笑顔を引き出したのは貴方ですもの! これからもぜひ一番近くであの笑顔を護ってくださいませ。わたくしたち、応援しておりますわ」
「が、頑張ります……!!!」
アンリエッタ様がオレの両手を白魚のような手でしっかりと包み込んで、ぶんぶん振る。アンリエッタ様にそう言われれば、もう頑張るしかない。
そう決意するものの、美しいお顔で、キラキラの瞳で見つめられて、両手をシェイクされて、徐々に恥ずかしくなってくる。
上級貴族のお嬢様力えげつない。
困ったなと思っていたら、うふふ、と楽しそうな声が聞こえて来た。
「アンリエッタ様、近すぎでしてよ。ルキノ様が困っていらっしゃるわ」
今までアンリエッタ様の後ろに控えていたユーリア様が、アンリエッタ様の手にそっと触れる。そこでアンリエッタ様もハッと気づいてくれたらしい。
「まぁ、ごめんなさい。あまりに嬉しくて、ついはしたない真似をしてしまいました」
「いえ、ありがとうございます。勇気が出ました!」
「まぁ、良かったわ」
「きっとルキノ様は自然体であのお方のお傍にいるだけで充分にあのお方を幸せにできるのでしょうね。見てくださいませ、アンリエッタ様。ルキノ様、とても素敵なチョーカーを身につけていらっしゃるわ」
「あら、本当ね」
「あ、確かに。今までのと似てるけど、ちょいグレードアップしたか?」
なぜかドルフまで参戦してマジマジと見つめてくるものだから、だんだん恥ずかしくなってくる。
「あ、すげえ、宝石ついてら」
「あのお方の瞳の色ですね。お気持ちのほどがうかがえますわ」
「まぁ、しっかりとヴァッサレア公爵家の紋章が型押しされているわね。あのお方、意外にも独占欲が強いのかしら。新たな発見だわ」
「それも素敵ね」
アンリエッタ様とユーリア様が微笑み合えば、ドルフは「どう見ても独占欲の塊っすけどね」と頷く。
そして、ユーリア様は俺に優しく微笑んでくれた。
「ルキノ様、番から贈られたチョーカーは、オメガとしてとても重要なもの。ある意味誇りとも言えるものですわ」
そう呟くユーリア様の首を、白くて繊細なレースのチョーカーが彩っている。ユーリア様のチョーカーも番に贈られたものなのかもしれない。
「番のチョーカーを賜ったのですもの。あんなに悩んでいらしたのに、あのお方に愛されて、ルキノ様はオメガとしてのご自身を受け入れることができたのですね」
そう言われると恥ずかしいけど、その言葉が、なぜだかすごく胸に響いた。
そういえばオレ、アルロード様とちゃんと番になってから、ずっとずっと嫌でずしっと心に重くのしかかってた、自分が『オメガ』だって事実が気にならなくなってた。
騎士にもなれず、でもオメガとして誰かを愛するとか愛されるとかそういうの、想像もできなくて、どう生きていいのか分からなくなってたってのに……オレは、アルロード様のまっすぐな言葉と行動に、一緒に生きてく未来を信じることができたのかもしれない。
「……アルロード様の、おかげです」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
突然アルロード様の声が降ってきて、オレは軽く飛び上がった。
もちろんアンリエッタ様とユーリア様はにこやかに挨拶をしているけれど、ちょっぴり頬が上気してとても可愛らしい。急な推しの補給、緊張するのめっちゃ分かる。
「あの、ルキノ様のチョーカー、とても素敵ですわね。今、ちょうどそのお話をしていたところですの」
「ありがとう、僕もとても気に入っているんだ」
「お二人があまりにも幸せそうで、見ているわたくしたちまで、幸せな気分です」
そんな会話を黙って聞いていたドルフも、深く深く頷いた。
「いや、ほんと良かった。ルキノがオメガだって分かったばっかの頃は、無理して笑ってんの見るのも結構胸にくるもんがあったけど、アルロード様なら俺も安心だしな」
「ドルフ……」
「任せてくれ。ルキノは絶対に僕が幸せにしてみせる」
「はいはい。それはもう信頼してますって」
アルロード様の決意表明に、ドルフが苦笑してる。
恥ずかしくって思わず顔を赤くしたオレに、アルロード様は満面の笑みを向けていて、アンリエッタ様たちはそんなアルロード様を頬を染めて見守っていた。
分かる。オレも、アルロード様がこんな言葉をはっきりと口にされるお方だとは思ってなかった。
嬉しいけど恥ずかしい。
恥ずかしいけどやっぱり嬉しい。
めちゃくちゃ複雑な気持ちだ。
「僕はルキノのおかげで今が人生で一番幸せだと思っているんだけれど、実はひとつだけ残念なことがあるんだ」
「ほー」
「まぁ、何かしら」
何も言えなくなったオレのかわりに、アンリエッタ様たちが聞き返してくれる。
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