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第24話 寝言より甘い本音

「……俺のこと、大好きなんだろ?」 拓実の静かな声が響いた瞬間、俺の血の気が一気に引いた。 夢だと思ってたのに……まさか、寝言を全部聞かれてた? 「っ、……それは……」 喉の奥で声が詰まって、うまく言葉が出ない。 「夢でも本音が出るんだ?」 「ちがうっ……」 必死に否定しようとするけど、声が裏返ってしまう。 「違わない。大好きだって、離れたくないって、はっきり聞こえたよ」 やばい、やばい。 顔が熱くて、とっさに布団に顔を埋める。 「こら、隠れんなって」 拓実の手が優しく俺の肩に触れる。 「……無理! ……やばい、超恥ずかしい……」 声が震えて、情けないくらい弱々しく聞こえる。 こんなの絶対無理だって。布団の中に永遠に隠れていたい。 「可愛いな」 「……うっせえ、見んな……」 拓実のそんな愛しそうな声が、胸の奥をきゅっと締め付ける。 「遥」 ただ名前を呼ばれただけなのに、肩がびくっと震えた。 拓実の声には、いつもと違う特別な響きがある。それが俺の心をかき乱す。 「遥、大好きだよ。絶対に逃さない」 こんなにまっすぐに、真剣な表情で言われたら、もうどうしようもない。 「そうやって、本気の顔で言うなよな……余計に離れられなくなるだろ……」 「それでいいじゃん。俺は最初から、離れるつもりなんかない」 「……俺は、拓実の隣にいていいのかよ」 不安が声に滲み出る。自分でもわかるくらい弱々しい声だった。 「当たり前だろ」 不安で見上げた俺を、拓実がそっと抱き寄せる。 温かい腕に包まれて、安心感と愛しさで胸がいっぱいになる。 拓実の体温が心地よくて、このまま溶けてしまいそうだ。 「それにさ……遥からの“終わりにしよう”のメッセージ、めちゃくちゃショックだったんだからな」 拓実が少し拗ねたような声を出してる。 慌てて顔を上げると、拓実の目が少し寂しそうに見えた。 「……ごめん」 「いきなり終わりだって言われたら、そりゃ悲しいし、焦るに決まってるだろ」 拓実の苦笑いに、思わず布団の中で後ずさる。 罪悪感で胸が締め付けられる。 でも拓実が肩に優しく触れてくれると、逃げる気持ちが薄れていく。 「マジでごめん。だって俺、拓実の邪魔になりたくなくてさ」 「邪魔?」 拓実が眉をひそめる。 「うん。拓実が俺といるメリットなんか無いよなって思っちゃって……」 「は?」 拓実の困ったような、そして少し怒ったような顔を見て、俺はさらに縮こまる。 「俺なんかが、拓実の隣にいちゃいけないなって……」 胸の奥で自己嫌悪がもやもやと渦巻いている。 「バカだな。遥はずっと俺の隣にいてほしい。邪魔だなんて思ったことねえよ」 「……華園レイラ社長は?」 「レイラさんがどうした?」 でも華園社長のことだけは、ちゃんと聞いておきたい。 「ガーデン・プロモーションと提携するっていうから、華園社長と……」 「なに? 嫉妬してくれたのか?」 拓実がにやっと笑う。 図星を突かれて、俺の顔が真っ赤になる。 「そ、そんなんじゃ……」 「レイラさんが“田中は要注意人物だ”って教えてくれた。あの助言があったからこそ、冷静に対処できた」 「助言……」 「うん。それに、俺と遥の関係も知ってる。でも彼女は応援してくれてるんだよ」 「え!? バレてんの……?」 俺、完全に誤解してた。 勝手に嫉妬して、勝手に諦めて……。 「だから安心しろ。俺の隣にいるのは、お前しかいないから」 「……調子いいこと言って」 でも心の奥で嬉しくて、声が自然と弾む。 「バーカ、本気だし」 拓実に顎を持ち上げられて、真正面から見つめられる。 その真剣で優しい眼差しに観念するしかない。 「……もう、わかったよ。俺、拓実から逃げたりしない」 「うん。その言葉、ずっと待ってた」 また拓実の腕に抱き寄せられて、今度は素直に身を委ねた。 拓実の体温が心地よくて、安心感に包まれる。 「拓実、好きだよ。大好きだ」 「……え?」 一瞬、拓実の体が固まる。 驚いた顔が間近にあって、俺は思わず目を逸らした。 「……聞き間違いかな?」 「なわけねえだろ……」 「じゃあ、もう一回言って」 拓実の声がわずかに掠れている。 期待と焦りが入り混じったような響きに、胸がじんと熱くなる。 「だから、俺は拓実が大好きなんだよ。離れたくない」 「……っ、反則だろ、それ」 「あはは、照れてる拓実もかわいいじゃん」 ……正直、田中さんのことは気がかりだ。 あの人が俺を狙っていたのは知っているし、まだ諦めていないかもしれない。 でも、もう迷わない。 俺は拓実の隣にいるって、ちゃんと決めたから。

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