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第7話

「ん、ぅ」  目を開けると見知らぬ天井で、眠気の残る頭を動かし、ここはどこだと考える。 (俺、久間さんの家に来て、それで――)  抱かれたのだと思い出した薫は飛び起きた。 「っ、うう」 「おっ。起きたか」  声に顔を向けると、鷹也がベランダでタバコを吸っていた。携帯灰皿に吸いかけのタバコを押し込んだ鷹也が、室内に戻ってくる。 「無理させちまって、悪かったな」  クシャリと髪を撫でられて、薫はポウッと鷹也に見とれた。ふわりと鼻孔をくすぐった、タバコの香りとその奥にある鷹也の匂いに体がうずく。 「どうした?」 「……いえ、なんでも」  パッと目をそらした薫は、頬が熱くなるのを感じた。 「そっか」  ベッドに腰かけた鷹也に、顔をのぞき込まれる。 「腹、減ったろ? なんか食いにいこうぜ。なんでも、薫が食いたいもんを言えよ。財布の中身は気にしなくていいぜ。おごるからさ」 「えっ」 「年上彼氏らしく、かっこつけさせてくれるだろ?」  かっこなんてつけなくても、鷹也は充分かっこいい。そう思いながら、薫は別の言葉にひっかかった。 「年上……彼氏?」 「付き合うって決めたから、おまえは俺を受け入れたんじゃねぇのかよ」 「え……っと」  言葉の意味を吟味して、正確にそれを把握した薫はベッドから飛び降りた。 「えぇええええっ?!」 「なんでそんなに驚いてんだよ」 「えっ。だって、えっ……かっ、彼氏って、その、えっと……ええ?!」  ニヤニヤ顔の鷹也にデコピンされて、薫は額を押さえた。 「落ち着け。いいか? 俺はおまえが好きだから抱いた。薫は俺が好きだから、はじめてを捧げた。てことは、そういうことになるんじゃねぇの?」 (そういうことに……なる、のか)  じっと鷹也の顔色をうかがいながら、薫は慎重にうなずいた。 「俺が、好きか?」  はっきりと首肯する。 「なら、俺といたいって思うか?」 「……思い、ます」 「じゃあ、俺と恋人になるか?」  わずかな間をあけて、薫は「はい」と答えた。 「なんだよ、その間! 傷つくなぁ」 「あの、久間さんがイヤとかじゃなくって、俺でいいのかなって思って」 「おまえだから、いいんだろ? ったく。まあいいや。これからじっくり、自分の価値ってやつを教えてやるから」  なぁ? と顎を指先で持ち上げられて、薫はドキドキした。 「さて。とりあえず服を着てくれねぇと、襲っちまうぞ?」 「えっ……あっ!」  全裸だと気がついて慌てふためく薫の手に、鷹也が服を渡してくれる。大急ぎで服を着た薫の頬に、鷹也が軽くキスをした。 「さて。んじゃ、飯を食いに行くか」  スマートフォンを手にした鷹也が、「あっ」と言って鷹のマスコットを目の高さに持ち上げた。 「ちゃんと、恋人からもらった大事なモンだからって断っとくから。俺だけの特別なお守りだもんな」 「久間さん」  じんわりと胸が熱くなって涙ぐんだ薫の肩に、鷹也の手が乗せられる。 「ったく。泣き虫だなぁ、薫は」  そんなところも、かわいいけどな。  そう言った鷹也に引き寄せられた薫は、自分が自分でよかったと、歓喜に震えながらキスをもらった。

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